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土木技術者の働きがい【第16弾 建設コンサルタント編 ~研究開発~】


みなさんこんにちは。若手パワーアップ小委員会新委員長の三木です。
 
このシリーズでは、「土木」と一口に言っても、様々な種類の仕事があり、各ポジションで若手はどんな仕事をして、どんなことに働きがいを感じているのかを紹介しています。
 
今回は第16弾として民間企業における研究開発に関するお話です。実務とはまた違ったお話ができればと思います。

1. 民間企業の研究開発とは

研究職と聞くとまず大学の先生が思い浮かぶでしょうか。あとは土木研究所のような研究機関でしょうか。でも民間企業にだって研究職があり研究者がたくさんいます。
大学などのいわゆるアカデミアは基礎研究を重視しているといえます。新しい材料の開発や新しい解析手法の開発など将来的に役に立つ研究開発といえるのではないでしょうか。
一方、民間企業の研究開発の大きな特徴は「アカデミアと実務のブリッジになる」ことだと思います。基礎研究成果を活かし、実務へ展開できるものにしていく「応用研究」に力を入れます。
アカデミアの基礎研究が学問に近く学術的価値を多く生み出している一方、応用研究では新しいサービスの開発や業務を行う上での技術提案に直結する可能性が高いです。どちらも研究開発の面白さは十分感じられますよ。

2. この記事を書いている人はどんな研究しているの?

私のモットーは「変わり者であること」です。他の人がやらないorできない技術でオンリーワンな技術者を目指したいと思っています。
私は大学時代地盤工学の研究をし、入社してから数年は土質調査や地盤解析を生業としていました。ただ、私は土よりも電子計算機(PC)を扱うことが大好きです。好きが高じて仕事で使う計算用PCを自作したりしました。オタク道まっしぐらです。
そんな私が現在行っている研究は、AIを活用した技術開発です。
皆様ボーリング調査を見たことはあるでしょうか?ボーリング調査では図-1のようなコアを採取し、これを技術者が観察することで調査地点の地層を判断しています。すなわち採取した土が砂であるか粘土であるかは現場の技術者が目で見て手で触ることで判断するのです。若いからと現場に送られ「ちょっとコアの観察して」と偉い人から言われても、経験がなければどれが砂でどれが粘土かなんてわかりません。困りますね。この判定をもしAIが代わりにやってくれたらどれだけ楽でしょうか。私は多数の土質写真と情報を学習させて技術者の代わりに土質の種類(砂や粘土など)や物理パラメータを判定するAI(図-2)を開発しています¹⁾。

図-1 ボーリング調査で採取する土(コア)(一般社団法 人斜面防災対策技術協会より)


図-2 AIによる新しい土質調査


その他にも、新しい取り組みとしてAIを用いた数値解析というものに取り組んでいます。土木界隈の数値解析はモデルが大型(都市まるごと解析ということも!)であり解析時間が非常に長くなります。私が関わった解析では一度の計算で2週間以上かかりました。そのような数値解析の時間短縮にAIを使ったサロゲートモデル(代替モデル)という技術があります。私が研究しているのはサロゲートモデルの1つで力学的情報を考慮したPhysics-informed Neural Networkというモデル(図-3)です²⁾。土木業界でまだ実用化した例はなく、どこよりも早く実用化することを目標としています。

図-3 AIによる数値シミュレーション

3. 研究職の働きがい

研究職のやりがいはなんといっても自分の好きなこと、興味のあることができるということでしょう。「数値計算が好きだから数値解析の研究がしたい!」、「維持管理に興味があるから維持管理のための技術開発がしたい」、「AIとかよくわかんないけどかっこいいからAIの研究がしたい」など何でもできる可能性があります(もちろん実際に研究テーマにできるかは皆さんのプレゼン力が試されます)。また、自分にとって未知の技術に触れることができるのも研究職の魅力だと思います。私も研究所に配属されるまでAIのことなど何も知りませんでしたが、今では(配属から約3年で)自分の得意分野のひとつになっています。
民間企業の研究職はアカデミアのように「博士が必要」、「最低修士は卒業していないと」ということはありません。やる気があれば誰でも可能性があります。

4. 研究職に向いている人って?

よく「研究職は難しそうだから私には向いてないと思う」というような言葉を聞きます。これは半分正解で半分間違いだと思います。研究職が難しいことは否定しませんが、その他の仕事が簡単ということはありません。最前線で活躍する土木技術者は日々とんでもなく難しい問題に立ち向かっています。
これは私の個人的な考えですが、研究職に必要なスキルは疑問を持つことだと思います。アイザック・ニュートンが、りんごが木から必ず垂直に落ちることを疑問に思い万有引力の着想を得たように、「なぜこの技術が使われるの?」や「もっと他にいい方法はないの?」といった疑問が新しい研究に結びつきます(かの有名なアインシュタインも「過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ。大切なことは、何も疑問を持たない状態に陥らないことである。」という言葉を残しています。)。

5. さいごに

若手パワーアップ小委員会では普段の仕事の中ではできないことをやりたいと思っています。もし、やりたいことがあるけど今の職場では難しいかなと感じている若手(自称若手も可)がいましたら若手パワーアップ小委員会の門を叩いてください。一緒に「変わり者」を目指しましょう(笑)。

参考

1) 三木 他:機械学習を用いた災害時の初動調査のための土質判定ツールの開発、第63回地盤工学シンポジウム、2022.
2) 三木 他:Physics-Informed Neural Networksによる一次元圧密沈下シミュレーション、第58回地盤工学研究発表会(投稿中)、2023.

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