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港町での1ヶ月、ときどき都会の雑踏と

気づけば港町に移住して1ヶ月半ほど経っていた。
「移住したらnoteでも書こうかなふふん」などと呟いてたが、慣れない暮らしと仕事でお気持ちがそれどころではなく、このタイミングになった。


広い空と青い海について情緒的な文章を書きたいが、移住したての私のリアルを残しておこうと思う。


引越しと移住はちがう。いや、それぞれをどう定義するかの問題はあるが、当たり前に、これまで経験してきた東京から大阪や大阪内のいわゆる都会から都会へ移る転居と今回は勝手がちがった。なにせ、兵庫県の消滅可能都市第一位の町に越してきたのだ。事のギャップがこれまでとは比ではなかった。


私は海の目の前の一軒家に住むことにした。
アパートをいくつか紹介されたが、直感で「ここで暮らしたい」と思って即決した。緑の壁が一番のお気に入りポイント。家賃は大阪のマンションの3分の1だった。


雰囲気がね、もうね、すき
こういうときね、しあわせなんです


お得意のケアレスミスをやらかし、転居の前にニトリから大量に荷物を送ってしまうも、優しい大家さんに救われて、なんとか5月末には暮らせる状態になった。


隣の塩山さん(仮名)というお宅に挨拶に行った。「通りの紹介をしてあげるけーな」と、10軒近くのお宅に連れてくれた。「若いわねぇ」「心強いわねぇ」などと言われながらヨックモックのシガールを配り歩いた。この町では29歳は若いらしい。


空き家も数軒あったけど、消滅可能都市と言われる割に暮らしがよく見える町だなと思った。潮風に揺れる洗濯物や軒先に置かれたプランターに咲く花が愛おしく感じた。


「車がない」と言うと大抵の人に心配される。こっちの人はどこに行くにも車、車、車。確かに最寄りのスーパーは小さい上に19:30に閉まる。コンビニはもはやコンビニと呼べる場所にない。美容室や病院は隣の鳥取県まで行かないといけない。だけど、なぜか、私はこの小さくて少々不便な暮らしが嫌いじゃないと、今のところ思っている。


大阪にいた頃、足繁く通った蔦屋書店。休日に600円のコーヒーを飲みながらファッション誌を読むことはなくなった。こっちへ来て、近くの図書館でおじいちゃんとおばあちゃんの間を「あ、こんにちわぁ」と座りながら江國香織さんのエッセイを読む休日もまぁ悪くない。小学校の図書館を思い出すような、古い紙の匂いに包まれる時間が私の心を豊かにしている。


こういう心がほぐれる出会いがある
いつかの借りた本たち


とは言っても、半移住の身で大阪にも家があるのでたまには帰る。ふらっと帰って猫と戯れたり、本社のメンバーにやっほーと言いに行ったり、ミュージカルで仲良くなった友人と神戸で1番美味しいと言われるピザを食べたりする。田舎にいる時間が長いと、都会の雑踏に触れたくなるときがある。


移住して数週間後、町の広報誌に載った。同じ町に住む祖母からは「わかちゃん〜〜見たでぇ」と電話がかかってきた。この町で育った母からは「同級生から連絡があったよ〜〜」と写真付きでLINEが来た。一人の女が移り住んできたことがこうして取り上げられるとは。恥ずかしいを越えて、都会ではありえないその光景に驚くしかなかった。


夕方の帰路、決まっていつものお家の前でおばあさんたちがおしゃべりをしている。「おかえり〜、どこ行ってたのー」とにっこり笑いかけられる。銭湯に行くと「最近よく来てるでしょ?回数券のほうが安いわよ」と受付のおばちゃんが声をかけてくれる。なんか、そういう距離感で人と生きている。


家の前の景色。夕飯前にここにいくのが日課



私の中に町が刻まれていき、町に私という存在が刻まれていく。「地域と共生する」みたいな感覚は初めてで、そこには愛着とか居場所とか、時には責任のようなものを感じることもある。


今まで都会で生きてきた規範や文化や習慣が一切通じない。どっちが良いとか悪いとかではなく、ただ違うという事実が目の前にある。今のところ私はそこを行ったり来たりで暮らすことに救われている。


広い空、青い海、潮の香り、よく笑う町の人。確かに私がここにいるという感覚。自分の輪郭が手にとってわかるのだ。感情や感覚が確かに内側から湧いてくる。その過程を丁寧に感じることができる。ときにそれは見たくない自分に触れることになるし、ちっぽけな自分のまま人と向き合わなければいけない。だからこそ、都会で情報や刺激を受動的に浴び、お金で快楽を買える環境に救われることがある。孤独を孤独のままにしてくれる、というのも都会のいいところだと思う。


移住サイコー!ハピネス!大きな自然と美味しいごはん!と手放しで極楽を表現できないのには「田舎では能動的に自分を感じ、土地と人と共に生きる責任を持つ」という側面に対峙して、時にそこから逃げたくなる自分がいるからだ。


最近撮れた一番好きな写真


移住日記、続くといいな。
雨が好きになった話とかもしたいです。

では。

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