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今こそ学ぶ「嶺南と原子力発電所」 まだまだ知らない“エネルギーのまち・わかさ”を再発掘

今年度の活動もそろそろ終了ということで、しめくくりとして嶺南を語るうえで欠かせない「原子力発電所」に迫ることにしました。

全国には15か所の原子力発電所、33基の原子炉があり、東日本大震災後、10基が運転を再開しています。
そのうち、嶺南には4か所の発電所に8基があり、東日本大震災後、5基が運転を再開しているという原子力発電所がとても多い土地なんです。

嶺南を根本から知るためには、地域の特色をきちんと知っておく必要がありそう。
ということで、すでに地域と共存してきた歴史のある原子力発電所を、まずはしっかり学んでみようと思い、関西電力美浜発電所に行ってきました。

原子力発電所に対するあらゆる疑問に答えてくれる!【美浜原子力PRセンター】

やってきたのは、美浜町の水晶浜。
白い砂浜と透明度の高い海が美しく、県内外から人気を集める海水浴場なんですが、その先にあるのが…

美浜発電所です!!!

右手に見えるのが丹生大橋で、その先に美浜発電所があります。
白っぽい大きな円筒形の建物が原子炉建屋です。

美浜発電所は1970年に運転が始まり、1号機は大阪万博の会場に送電をしたという歴史もあります。
現在は3基の原子炉があり、3号機のみが運転中。
1・2号機は運転が終了し、廃止措置を行っているところです。
(安全に廃炉にするために、約30年かけて作業を行うそう!)

そして今回は、橋の手前にある『美浜原子力PRセンター』にお邪魔しました。

発電の仕組みや安全対策、放射線やエネルギーに関する展示が行われている施設で、誰でも自由に見学できます。
お願いすればスタッフの方に案内してもらうことも可能。
スライドを使った説明を聞いたり、展示館を案内してもらったり、VRで発電所内を疑似見学したりできますよ!

案内してくれた石倉さん

今回はフルコースでご案内してもらいましたが、人気は「VRご説明コース」だそう。

VRゴーグルをつけて、一般の人はなかなか立ち入れないという丹生大橋を渡り、発電所へ。
VR見学なので、原子炉建屋の中にも入れます!

原子炉格納容器(円筒形の建物)の内部。こういった映像をVRで臨場感たっぷりに楽しむことができます。

そもそも原子力発電の仕組みは、ウラン燃料に中性子を当てて核分裂を起こし、発生した熱を利用して電気をつくるというもの。

美浜発電所の発電の仕組みを具体的に説明すると、
円筒形の建物(原子炉格納容器)に原子炉や圧力をかける装置、蒸気を発生させる装置などが入っています。

原子炉の中は水で満たされていて、燃料棒を束ねた燃料集合体がたくさん入っています。
燃料棒の中には、1㎝ほどに焼き固めてつくったペレット状のウランがいくつも詰まっています。
ここに中性子を当てることで核分裂が起き、発生した熱エネルギーで水を蒸気に変え、蒸気がタービン(羽根車)を回すことで発電するという仕組み。

左が原子炉の1/3模型。燃料棒を束ねた燃料集合体がぎっしり入っています。
原子炉の右側にあるのが実物大の燃料棒・燃料集合体の模型。
原子炉体験シアターでは、映像、模型によって原子炉の内部がよりリアルにわかります!

ここまで話を聞くと、原子炉格納容器の中はさぞ放射線量が高く危険な場所なのでは?と思ったのですが、実はそんなことはないそうで。

美浜発電所で使っているタイプの原子炉は、タービンに送られる蒸気には放射性物質は含まれていないんだそう。
さらに、1度使った燃料は水の中で管理することにより放射線を遮蔽し、原子炉格納容器などの放射性物質を取り扱うエリアは「管理区域」と呼ばれ厳しくチェックされています。

もちろん、定期検査(約1年に1回、運転を停止して機器の点検や検査を行う)では、原子炉格納容器の中で働く人もたくさんいます。
原子力発電所で働く人というと、常に宇宙服みたいな防護服や防護マスクで完全防備しているというイメージがあるかもしれませんが、そこまでの格好をすることはなく、もう少しすっきりとした防護服で作業しているようです。
原子炉格納容器の外では、防護服を身につけず、普通の作業着で働いている人もたくさんいます。

丹生大橋を渡ったら超危険地帯!というイメージが漠然とあったのですが、そんなことはないんですね。

使用済み燃料プールで作業する方々

VRでは、使用済みの燃料を保管しておくプールにも行きましたが、そこにいる作業員の方も、想像よりもずっと軽装に見えました。
それよりも、使用済みとはいえ核燃料を保管している場所にここまで近づいて大丈夫なんだ!と驚きました。

また、核分裂が起こっている場所と外界の間には、放射性物質を封じ込めるための5重の壁があります。

五重の壁(右が外側)

そういった工夫もあり、原子力発電所周辺の放射線量は年間で0.001ミリシーベルト未満なんだそう。

無知な筆者は5ミリシーベルトくらい?なんて思っていたんですが、そんなことはないんですね。

とはいえ原子力発電所がなければ存在しない人工的な放射線なので、気にならないといえばウソになりますが、自然界に存在する放射線による被ばく量(年間で2.1ミリシーベルト程度)と比べれば、比べ物にならないくらい少ない量なんだということにびっくり!

一方で、福島第一原子力発電所のような事故の可能性もゼロではないでしょう。
あのような事故がまた起きたら?と不安に感じる方も少なくないと思います。

スライドによる説明では、福島の事故の原因を詳しく説明するところから、事故を受けて美浜発電所が行っている安全対策についても説明がありました。
展示スペースにも、安全対策に関する模型が展示されています。

美浜発電所では、地震や津波への備えの強化はもちろんのこと、火山や竜巻、火災、テロなどさまざまな災害、事故を想定した対策が行われています。
竜巻に備えるため電源車などが飛ばないようにつないでおいたり、森林火災が延焼しないように周辺の樹木を伐採したりと、素人の筆者には思いもつかないような対策がいろいろありました。

ただ、嶺南にある原子力発電所のどこかで事故が起き、住んでいる地区の放射線量が高まった場合は30km圏外に避難する必要があります。
どんなに安全対策をしても、想定外の事故が起こる確率がゼロになることはなく、不安と共存していかなければならないことに変わりはありません。
けれども、知らないで怖がるよりは、知ることで正しく危機感を持てるようになるのではないでしょうか。

電気を使う人間として、原子力発電所がたくさんある嶺南に興味を持つ人間として、まずは原子力発電所をよく知り、そのうえで自分なりの意見を持つことが大切だと感じました。

ちなみに、美浜町のお隣の敦賀市には、北陸電力の敦賀火力発電所があります。
車で30分ほどの距離に原子力発電所と火力発電所が存在する地域は全国的にも珍しく、一度に両方見られるからという理由で県外から見学に来る方も多いんだそう。
エネルギーに興味がある方は、美浜原子力PRセンターと併せて、敦賀火力発電所PR室にも足を運んでみては?

美浜原子力PRセンター
福井県三方郡美浜町丹生
https://www.kepco.co.jp/corporate/profile/community/pr/mihama/index.html

自分で体験してエネルギーを学ぶ!【エネルギー環境教育体験館 きいぱす】

続いて、美浜原子力PRセンターのすぐ近くにある、エネルギー環境教育体験館『きいぱす』にやってきました。
『美浜原子力PRセンター』も『きいぱす』も、令和2年度に国に認定された「若狭湾次世代エネルギーパーク」を構成する施設の一つです。

美浜町のエネルギー環境教育カリキュラムに沿って、町内の小学校1年生〜中学3年生・高校生が講座や体験を通してエネルギーを学ぶ施設。
もちろん町外の学生さんや一般の方も入場可能です!

館内ではいたるところに実際の消費電力(ワット)が表示されているので、身の回りでたくさんのエネルギーが使われていることを改めて実感できます。

じゃあワットってどのくらいのエネルギーなんだろう???

10kgの重さを1mの高さまで1秒かけて持ち上げるのに必要なエネルギーパワーが100ワット。
100ワットの電力を使い続けるということは、この動作をずっと続けるということ。

みたいに、実際に自分の体を動かしながらエネルギーを理解することができます。

運動エネルギー測定体験
エルゴメーター発電体験
立ち乗り電動二輪車(インモーション)体験

ほかにもソーラーパネル付きのバッテリーカーや燃料電池レーシングカートでコースを走ったり、楽しみながらエネルギーを学ぶことができます。

また、きいぱすにはパネル正面が太陽のほうを向くように追尾する太陽光発電装置があり、発電した電力はきいぱすの施設内で使われています。

この日は晴れていたので、施設内の電気は全て太陽光発電で賄い、余った電力は売電していました。

さらに、エネルギー事情や発電に関する講座もしていただきました!
ここで気になったのが「輸入エネルギー」「純国産エネルギー」「準国産エネルギー」というキーワード。

日本のエネルギー自給率は10%程度ととても低いんです。
日本の電気の多くが火力発電によってつくられており、主に天然ガスや石炭が燃料として使われていますが、そのほとんどを輸入に頼っています。
つまり、輸入エネルギーということ。
輸入エネルギーは国際情勢などに左右されるリスクがあるほか、運搬に時間もお金もかかるなど、良いことがあまりありません。

一方で、太陽光や風力、水力発電は純国産エネルギーといわれています。
そして、準国産エネルギーというのは原子力のこと。
燃料となるウランは海外から輸入しているのですが、燃料補給なしで1年ぐらい連続運転できること、一度使っても再処理・再利用ができることなどから、準国産エネルギーとして扱われるそうです。

では、純国産かつ環境にやさしい太陽光や風力発電だけに頼ればいいのかというとそういうわけでもないそうで。
これらは天候に左右されやすく、安定供給しづらいというデメリットがあるんです。
そして、原子力発電も、火力発電も、全ての発電方法にメリットデメリットがあります。

そこで日本では現在、経済性、環境性、供給安定性、安全性を重視し、最適なバランスで電気をつくる「エネルギーミックス」の実現を目指しています。
(2030年度の目標は、火力41%、再生可能エネルギー36~38%、原子力20~22%、水素・アンモニア発電1%)

電気を使う私たちは、こういう事情をしっかり勉強して理解していかなければいけないと感じました。
そして、太陽光で動くおもちゃを選んだり、スマホは太陽光で充電したり、小さなことから一人ひとりが行動を変えることで、エネルギーの未来がちょっとだけ変わるんじゃないかな、とも思いました。

きいぱす
福井県三方郡美浜町丹生62-1
https://www.town.fukui-mihama.lg.jp/site/kiipasu/

嶺南を考えることは、エネルギーを考えること

今回は、嶺南の魅力を根本から知るためには地域の特色をきちんと知っておく必要があると考え、原子力発電について学びに行きました。

まずわかったことは、原子力発電について知らないことがたくさんあった、ということ。
筆者自身、これまではよく知らないのにイメージで良い悪いを判断しようとしていた部分があったことに気づきました。

また、きいぱすでは原子力以外のエネルギーについても学ぶことができました。

電気を使う人間として、
原子力発電所がたくさんある嶺南に興味を持つ人間として、
まずは原子力発電所を含めたエネルギーについてよく理解し、そのうえで自分なりの意見を持つことが大切だと感じます。

そして、こういった情報や歴史をリアルに感じながら未来のエネルギーのことまで真剣に考えることができる嶺南・わかさという地域は、まさに“エネルギーのまち”だなあ、とも。

嶺南を考えることは、エネルギーを考えることにも通じる。
そんな気づきがあった発掘でした。

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