「過ち」

戻りたいなあ、と思った。ただいつに戻りたいか聞かれても答えられない。

小中高は戻りたくないし、大学は思い出しても楽しい思い出ばかりで今の私と比較してしまう。

でも、戻りたくない。きっと私は同じ過ちを繰り返すだろうから。

過ち? 過ちとはなんぞや。
生育環境なのか生まれつきなのかわからないが、生来持って生まれたものがあったからこそ、私は小さな過ちを砂山のように積んで、二度と来ませんようにと祈ったのだが、20代前半を除いてそれは幾たびも幾たびも来ている。

辛い話をすると、どちらのほうが辛いか自慢になるのもいやだった。
はっきり言ってむかついた。
比べるものちゃうし。
私より不幸な人を見て自分の慰めにしたら性格悪いやん。

「〇〇、死んだ」と連絡がきた。
精神科病棟で知り合った友だちだった。

ただ私たちはお葬式に行けない。死んだ人の姉が、LINEであの病棟にいた誰かに連絡しようとして、彼に連絡して、そこから私に伝えられたのだ。
〇〇の家すら知らないし、私たちは葬式では招かれざる客だろう。

教えてくれた男性とも、もう電話のメッセージでしか連絡がつかない。
そうなんや。死んだんや。
何度も話したはずなのに、その人の姿が浮かび上がってこない。
連絡してくれた友だちが言った。
「うちの叔母はうつで自分で飛び降りて……」
ああ、そうか。
私はあのころ、人の死の記憶を、消そうとしていた。

私は生きている。でも人生で「過ち」をおかさなかったとは思えない。
死を選んだ○○が「過ち」をおかしたとも思えない。

そして今、「過ち」ではないものと向かい合っている。
正直、アラフォーにはきついんですが。
ラスボスは10年前に倒したはずなんですが。

私は大きなノートを広げ、「私にできること」を書く。
ここで、できること。遠くで、できること。
叶うかわからない。書いていること自体が叶わない「過ち」かもしれない。
でも今の私は、それを書くしかない。

戻りたいなあ。
思ってもいないのに言ってしまう言葉。

明日こそ、早起きをする。



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