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「オタサーの姫」はなぜサークルクラッシュを引き起こすのか

「オタサーの姫」についてみなさんはどれほどのことをご存じだろうか。

男性ばかりのオタクサークルに「紅一点」として入り込み、女性経験に乏しい男性メンバーからチヤホヤを無限に搾取し、(たいして美人でもないのに)「姫」として君臨するキモい女たち。そんな一般的なイメージを抱いてる方が大半だろう。もちろんそれは間違いではない。

しかし考えてもみてほしい。もしあなたが女性に生まれたとして、「オタサーの姫」の座に就きたいなどと本気で思うだろうか。自由恋愛社会における「若い女」というのはほとんど貴族階級と等しい。にも関わらず、不可触民であるキモいオタクに囲まれる青春など貴方は求めるだろうか。もちろん「YES」と答える方は少数派だろう。せっかく女に生まれたのにオタサーに入るなど常軌を逸している。

オタサーの姫の基本習性として語られるサークルクラッシュについてはさらに気違いじみている。平和に活動するオタクをわざわざ破滅させて何の益があるというのか。若い女がオタクサークルに参加するだけで十分異常なのに、わざわざ破壊するためにオタサーに入るという話になれば、ほとんど妖怪の所業である。

なぜ姫たちは「オタサー」にやってくるのか。姫たちはオタサーに何を求めているのか。なぜサークルクラッシュは生じてしまうのか。彼女たちは「オタサーの姫」になることでどんな人生を歩むのか。

本稿は知られざる「オタサーの姫」の生態について詳しく綴っていく。


女社会からの排除がオタサーの姫を生む

「若い女」という貴族階級に属しながら「オタクサークル」という不可触民のスラム街に身を置きたがるオタサーの姫たち。彼女たちは何を求めてオタクサークルにやってきたのだろう。チョロいオタクを転がすのが心の底から好きという異常性癖者なのだろうか。

もちろんそんなことはない。「オタサーの姫」の多くはごく普通の女の子だ。特別にオタク男子が好きとか、特別に他人を操作するのが好きとか、そういう共通項はほとんど見られない。

ただし、ひとつだけ極めて頻繁に観測される共通項がある。それは「姫」のほとんどが女社会からの疎外を経験しているということだ。典型的なのが小中高の学級における排除だが、それ以外でも部活動や趣味のサークルも含め「女社会」に対して強いトラウマを持つ「姫」があまりにも多いのだ。

女社会が時に厳しい一面を持つことは広く知られているが、その矛先がコミュニケーション弱者に向けられがちなことはあまり知られていない。女社会は男社会と比べ同調圧力が強く、協調性を欠く人間は厳しく排除され、異物を「加害者」に仕立て上げ攻撃する文化も横行している。そのような場で最もつらい思いをするのは発達障害や社交不安障害などを抱えたコミュニケーション弱者だ。女社会の高度にハイコンテクストかつ排他的なコミュニケーション作法に彼女たちはついていけないのである。

発達障害当事者の間でよく言われている話だが、発達障害を持つ男性は同性の友人がいる代わりに彼女がおらず、発達障害を持つ女性は同性の友人がいない代わりに恋人がいる傾向がある。これは「発達障害」を「陰キャ」に言い換えても成立するだろう。なんらかのコミュニケーション障害を持つ女性にとって、「女社会」とは鬼門以外の何物でもないのだ。

そうした陰キャ女性が、孤独に苛まれ苦しみ彷徨ったあげく、安住の地として発見するのが男性主体のオタクサークルだ。陰キャ男性特有の女性への紳士的なやさしさ、性的アプローチに消極的な傾向、個性的なキャラクターに対する寛容さ(異常者イキリとも言う)、それら全てが陰キャ女子にとって寒い冬の日にあたる石油ストーブのような温かさを持っているのだ。

だからこそ、陰キャ女子はオタクサークルに集う。女社会からの疎外によって得た傷つきを癒し、もう一度他者と繋がるために。そこにあるのは「チヤホヤされたい」でも「オタクを振り回したい」でもない。他者との暖かな交流を切実に求めるからこそ、姫はオタサーに集うのだ。


サークルクラッシュの光と闇

上のような説明を聞いて違和感を抱く方も少なからずいるだろう。なるほど確かに受け容れてくれるコミュニティを求めてオタサーに集まる女性もいるだろう。しかしその場合「サークルクラッシュ」のような加害的な関わり方は説明できないのではないか、と。

確かに「オタサーの姫」と「サークルクラッシュ」は近接領域にある現象だ。サークルクラッシュの主犯は基本的にオタサーの姫であり、それは意図的に引き起こされるものだと考えられている。メディア側も「サークラ女のヤバい手口!」的なフレーズでそういった事例を選択的に取り上げたがる。以下の漫画作品などはその典型のひとつだろう。

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(引用:プロの『オタサーの姫』に取材したら闇がすごすぎたって話

彼女たちのような「愉快犯」を見ると、「女社会からの排除がオタサーの姫を生む」という仮説は揺らぎそうになる。やはり姫たちは悪意と嗜虐心からオタクに近づいているのではないか。そういった警戒心を抱く向きを否定するわけではない。

しかし断言するが、サークルクラッシュの本質は悪意や嗜虐心にあるわけではない。むしろもっと深刻な背景によって引き起こされているのだ。

思い出してほしいのだが、

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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