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キャンセルカルチャーの本質は事実の歪曲と情報操作

関東大震災の折「朝鮮人が井戸に毒を」という流言飛語が流れ数千人の在日コリアンが虐殺される事件があった。いわゆる関東大震災朝鮮人虐殺事件だ。

集団狂気と差別意識と事実誤認が化学反応を起こした結果生じた悲劇だが、人類は未だこの手の愚行から自由になってはいないように思う。

先日「オープンレター騒動」を時系列順に整理して改めて気付いたことなのだが、キャンセルカルチャーという代物は震災時の朝鮮人虐殺とよく似た構造を持っているように思う。流言飛語に扇動された衆愚によるリンチという側面を多分に持っているからだ。

この記事を公開した後、読者から「本当にこんな些細なことが切っ掛けなのか」という驚きの声を数多く頂いた。「Twitterの鍵垢で悪口を言っていた」という下らない問題がここまでの大事に発展したことに多くの人々が衝撃を受けた様子だったのだ。

その気持ちはよくわかる。「オープンレター 女性差別的な文化を脱するために」を普通に読めば、呉座勇一という輩はよほど悪辣なことをやったのだろうという気持ちになる。

「多くの女性への中傷を含む性差別的な発言」「マジョリティからマイノリティへの攻撃」「歴史修正主義」「男性中心主義」「被差別カテゴリーに属する人びとを貶め気軽に個人を中傷することを可能にしている文化」「マイノリティの生を脅かしている」

などという厳めしい文言が並んでいるのだ。重大な加害行為があったに違いないと想像するのは自然なことだろう。

しかし呉座氏の発言ログを実際に調査した者は、ほとんどの場合その予想を裏切られる。筆者が調査した限りでも「マジョリティからマイノリティへの攻撃」や「多くの女性への中傷を含む性差別的な発言」など見つからなかった。見つけたという方はぜひソース付きで教えてほしい。

「事実」ではなく「イメージ」を元にターゲットを攻撃する。それがキャンセルカルチャーの基本構造なのだろう。

考えてみれば、被害を受けたという「事実」に対して処罰や賠償を求めるなら、キャンセルカルチャーではなく司法制度に頼れば良い。警察と裁判所が事実関係を明らかにし、それに見合った処罰と賠償を命じてくれる。署名活動もWEB上での暗躍も情報統制も必要ない。イージーで、シンプルで、フェアな解決方法、それが司法制度という万人に開かれた救済手段だ。

あえて「司法」というフェアな解決方法ではなく「キャンセル」というイレギュラーな方法を選ぶ時点で、法的責任以上の処罰をターゲットに与えようとする傾向がキャンセルカルチャーにはあるのだろう。

そして法的責任以上の処罰を与えようと目論むならば、「事実」に立脚するわけにはいかない。事実を基にしてしまえば事実に即した等身大の処罰(つまり法が定める処罰)しか与えられないからだ。それでは法ではなくキャンセルを選んだ意味がない。

だからこそキャンセルカルチャーの賛同者たちは「事実」を曖昧にし「イメージ」を膨らませることに注力する。現に例のオープンレター騒動も、呉座氏の発言をまとめたWEB上の記録が次々と削除され、wikipedia上でも不可解な編集合戦が行われている。キャンセルカルチャーを弄ぶ者たちにとっては「事実」こそが恐るべき敵なのだ。

「事実」ではなく「イメージ」を元にターゲットを攻撃するキャンセルカルチャーの手法、これはなにもオープンレター騒動に限ったものではない。近年起きたキャンセル事例のほとんどが似通った構造を持っている。

いくつかの実例をご紹介しよう。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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