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キモい人間は「言動」ではなく「存在」がキモい

「お前はこういうところがキモいから直せ」と言われ、言われるがままに言動を改善したのに、一向に周囲からの反応が好転せず、それどころかさらにキモがられてしまう。そんなケースに心当たりのある方は多いだろう。

服装がキモい、喋り方がキモい、姿勢がキモい、話題がキモい…。そうした「指摘」を真に受け、真摯に改善を志すキモオタは実のところ少なくない。

しかし彼らの努力が実を結ぶケースは稀だ。努力しても周囲の反応はなんら変わらず、一向に結果に繋がらないことから学習性無力感を拗らせ、遂には改善そのものを諦めてしまう。そうした諦めの態度を見て、「親切にも指摘してくれた」人間たちは「やっぱりあいつはダメだ。せっかく教えてやったのに努力さえしない」と留飲を下げる。娑婆という名の地獄で頻繁に見られる光景だ。

しかし実のところ、「キモさ」の原因は「行為」にはない。

服装、喋り方、姿勢、話題、体臭、態度、それらは「キモさ」の本質ではない。それらをいくら改善してもキモい人間からキモさが失われることは決してないのだ。キモさを改善する努力が一向に実を結ばないのはある意味で当然で、「キモい」とされている人々は実のところ「キモい」行動など取っていない。

例えば、口臭について考えてみよう。若い女性と中年男性、あなたはどちらの口が臭いと感じるだろうか。「おじさんの口臭はクサそう」というイメージを抱かれた方がほとんどだろう。しかしこれは事実に反した直感だ。

歯周病を専門とする歯科医学者と医療機器メーカーが共同で行った調査によれば、専門機器を用いて口臭レベルを定量化した場合、若い女性の口臭レベルは中高年男性のそれを上回っていることが明らかになった。「クサい」のはおじさんではなく若い女性なのだ。ちなみにおばさんはおじさんの倍以上口が臭い。

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(引用:「口臭白書 2019」

これは口臭以外の体臭についても同様で、入浴頻度においても中高年男性は若い女性を上回っている。つまり風呂に入らないのも歯を磨かないのもおじさんではなく若い女性なのだが、「クサい」という烙印を押されているのはおじさんなのだ。

そもそも筆者の感覚からすれば、女性人気の高い男性インフルエンサーというのは基本的にみな死ぬほどキモい。ホストやメン地下といった存在そのものがキモい人間は論外として、歌い手やユーチューバーと言った若い女性に広く人気のあるインフルエンサーもみな「ナヨナヨしてる」し「服装が変」だし「喋り方が陰キャ」だし「年齢相応の顔つき」をしていないように感じる。潤羽るしあ騒動で話題をあつめた歌い手「まふまふ」氏はYouTube登録者数300万人超を誇る超人気歌い手だが、30歳にもなってあのビジュアルと言動はキモいを超してイタいとしか筆者には感じられない。

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(編注:歌い手「まふまふ」氏。30歳でこのビジュアル。33歳Vtuberとの恋愛騒動で世を騒がせた)

実のところ筆者は「女性に人気のコンテンツ、キモくないか?」という感覚を長年ひたすらに溜め込んできた。当時交友のあった女性から延々と男性声優のライブDVDを見させられる拷問を受けたことが切っ掛けなのだが、男性的な感覚からすればどう見ても滑稽で奇妙で醜悪でしかないものを女性が感涙しながら愛好するという事例は決して珍しいことではない。

最近驚いたのは「弱虫ペダル」のミュージカルだ。自転車競技をミュージカル化するなど一体どうやるのだろうと思っていたのだが、なんと自転車の「ハンドル」部分だけを持ってそれで自転車競技を表現しているらしい。

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(引用:舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇をニコニコ生放送が配信

もちろんこれは限られた条件の中で表現を成り立たせるための努力であり、コンテクストを踏まえれば普通に楽しめるだろうとも思うのだが、やはり一見滑稽であることは否定のしようがないだろう。これを文化祭で陰キャがやったら卒業までのあだ名が「ハンドル」になることは確定的だ。

つまりキモさというものは、「行為」ではなく「人」に宿るのだ。

キモい人間の口だからクサい。キモい人間の服だからダサい。キモい人間の話だからつまらない。キモい人間が好きな漫画だからオタクっぽい。キモいからキモい。このトートロジーこそが「キモさ」の難しさだ。

だから、キモさを改善する努力は実を結ばない。風呂に入って歯を磨いても、身なりに気を遣っても、話題の取り扱いに気を付けても、キモい人間が行う限り、「クサい」「ダサい」「つまらない」という評価を下されてしまう。そうしてあらゆる努力が打ち砕かれた後に、陰キャ・キモオタたちは全てを諦める。大抵は「たぶん顔が悪いんだ」といった諦観を抱きながら。

しかし、キモさの本質は顔ではない。顔面が崩壊している陽キャなどいくらでもいる。顔が整っているキモオタもまた無数に存在する。ひとつの要因として容姿が存在することは否定しないが、キモさの本質が容姿にあるとするのは「キモさ」の烙印を押し付けられた者が陥る典型的な誤謬だ。

それでは「キモさ」の本質はどこにあるのだろう。はっきり言ってしまえば、キモさの本質は

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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