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なぜフェミニストは男児向けシェルターの設置に反対するのか

なかなかに陰鬱な一件があった。性暴力被害や虐待被害などの過去がある方は注意して閲覧してほしい。

児童虐待とそのサバイバーの問題に取り組む「NPO法人虐待どっとネット」の代表理事である中村舞斗氏のTwitterが「炎上」した。

どのような発言が怒りを買ったのだろう。以下が「炎上」を引き起こした一連ツイートになる。

中村舞斗氏の問題提起はごく素朴で穏当だ。実際、男児を受け入れる子供シェルターの数は極めて少ない。もちろん虐待や性暴力の被害にあう男児は少なからず存在するのだが、支援窓口の多くが女児に対象を限定しており、支援の輪から零れてしまう男児が数多く存在する。

そのような現状に疑問を投げかけるのは児童虐待をフィールドとするNPO理事として極めてまっとうな態度だろう。しかし残念ながら氏のツイートは「炎上」してしまった。どのような形で炎上したのか、反応のごく一部を引用する。

「男児向けの子供シェルターが少なすぎる」という中村舞斗氏の問題提起は「醜悪なミソジニー」であり、見当違いの「被害者意識」に基づいたものであり、「少年院とか監獄が実質男性シェルターとして機能している」から男児向けシェルターは必要ないのだという。

引用したツイートはごく一部だが、全体では100件以上の悪罵が中村氏には投げかけられた。詳しい経緯は以下のnoteを参照してほしい。

この醜悪な光景を見て「一部の過激なミサンドリスト(男性憎悪者)が暴れているだけでこれは本来のフェミニズムではない」と考えたならそれは大きな考え違いをしている。フェミニズムは過去一貫して男性被害者に対して攻撃的だったし、彼らが声を上げることを暴力的に抑圧し続けてきた。

本稿は「なぜフェミニストは男性向けシェルターの設置に反対するのか」と題し、フェミニズムが男性被害者を攻撃してきた歴史と、その背後にあるフェミニズム理論のロジックについて綴っていこうと思う。



「世界初のDVシェルター」で起こった顛末

「男性のDV被害」の存在は、実のところ「DVシェルター」というアイディアがこの世に誕生した瞬間から観測されていた。

DV被害者のための現代的シェルターが世界ではじめて設置されたのは1971年のことだ。英国の慈善活動家エリン・ピゼイによって設置された「Chiswick Women'sAid」という名の施設がその先駆けで、ピゼイの貢献は当時主流だった第二派フェミニズムから惜しみない賛辞を送られた。

しかしChiswick Women'sAidを設立して間もなくピゼイはある事実に直面することになる。それはDVの被害者は女性だけではないという想定外の現実だった。

家庭内暴力と呼ばれるものは男性から女性へと一方通行で行われるものではなく、その多くが双方向的に行われており、「被害者」を名乗る女性たちは実のところ夫と同じかそれ以上に暴力的に振舞っていた。男と同じく女もまた暴力を振るうのだ。

DV支援の現場に立つことでその事実を知ったピゼイは、得られた知見を早速全世界に発表することにした。それが1982年に発表された「Prone To Violence(暴力を受けやすい体質)」だ。

ピゼイの立場は一変した。もちろん良い方向にではなく悪い方向にだ。

フェミニズムの聖人だったはずのピゼイは、一夜にしてフェミニズムの背教者へと転落した。彼女に対する中傷キャンペーンが大々的に展開され、彼女の自宅近辺には中傷ビラがばら撒かれた。彼女の元へは無数の殺害予告が寄せられた。彼女の飼い犬は射殺された。イギリス警察は常に彼女を警護するようになり、彼女の自宅の郵便ポストは警察の爆弾処理班によってチェックされるようになった。彼女は身を守るために転居を繰り返し、遂にはカリブ海の孤島ケイマンブラック島に移住する羽目になる。

世界初のDVシェルターを設立した慈善活動家、エリン・ピゼイが犯した罪とはなんだったのだろう。それは端的に言えば以下の三つだ。「男性被害者」というフェミニズムの教義では存在してはならない人々に光を当てたこと。女性被害者の無謬性に異議を挟んだこと。女性もまた男性と同じく加害的になり得ることを指摘したこと。これらの事実を公言したこと、それこそが彼女の罪なのだ。


なぜ男性被害者は攻撃されるのか

エリン・ピゼイの一件はなにも特殊なケースではない。フェミニストは何十年も前から一貫してあらゆる種類の男性被害を黙殺しようと活動し続けてきた。それはピゼイが攻撃された1980年代から現在の2020年代まで全く変わっていない。

なぜ彼女たちは男性被害者を攻撃するのだろう。冷静に考えて、家庭内暴力や性暴力の被害にあった男性には何の落ち度もない。彼らの存在がフェミニズムに害を与えるなどと多くの読者は考えないだろう。

しかしフェミニズム理論をよくよく学べば「男性被害者は存在そのものが反フェミニズム」なのだということがよくわかる。なぜそのような結論が導き出されるのか、まずはその前段となる理論についてご説明しよう。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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