「理解のある彼くん」を虐待親にしないためにできること
過激な物言いに定評がある本マガジンだが、筆者にもあまり口にしたくない話題というものはある。「理解のある彼くん」が虐待親に進化しやすいというのはその中のひとつだ。より正確に言うと、「彼くん」は機能不全家庭における黄金パターン「過干渉な母親と無関心な父親」の後者、「無関心な父親」に変化しやすい傾向がある。
こう言ってしまうと、「彼くん」として生きている男性にも、「彼くん」を頼らざるを得ない女性にもあまりに酷な話となってしまう。ゆえに今まで明け透けに言語化することは避けて来たのだが、そろそろこの構造もSNSをはじめとして可視化されてきたきらいがある。いい加減に沈黙を保ち続けるのも無理があるのだろう。
本稿で強調しておきたいのは、「理解のある彼くん」が必ずしも機能不全家庭を形成してしまうわけではないということである。確かに「彼くん」と機能不全家庭の関係は浅からぬものがあるのだが、「彼くん」とそのパートナーの対応次第で最悪の未来は十分に避けることができる。
そこで本稿では「理解のある彼くんを虐待親にしないためにできること」と題して、「理解のある彼くん」が機能不全家庭の片翼を担ってしまう背景構造と、その回避方法について綴っていくこととする。
「第二の母親」としての「理解のある彼くん」
「理解のある彼くん」とはメンタルヘルスに問題を抱える女性パートナーを献身的にサポートする男性パートナーを指すネットスラングだ。基本的には揶揄的な意味で用いられているが、「彼くん」に支えられたいと願うメンヘラ女性の数は少なくない。「なぜ私のところには彼くんが来ないのか…」という嘆きはメンヘラ女子のあるあるネタのひとつと言えよう。
この説明だけ見ると、「彼くん」が「無関心な父親」に変化するというのは直感的に理解しづらいところがある。献身的にパートナーを支える「彼くん」が、我が子にだけ冷淡になるなどあり得るのだろうか?そんな疑問を抱くのは自然な感覚だろう。実際、ネット上で囁かれる「彼くんは無関心な父親になりやすい」という言説に反感を抱いているメンヘラ女性(や彼くん)は少なくない。
しかし「彼くん」が機能不全家庭の片翼を担ってしまうというのは現実にメンヘラ業界ではしばしば見られる現象だ。「彼くん」が献身的にパートナーをサポートすればするほど、「子供にとっての父親」として彼くんが機能不全を引き起こしてしまう構造がある。
そのメカニズムをひと言で表せば、「母性と父性のダブルバインド」と言うことができるだろう。「母親」と「父親」の役割を同時に求められることで、彼くんたちが深刻に損なわれてしまうのだ。
このメカニズムを理解するためには、「理解のある彼くん」という存在について少々深掘りする必要がある。
メンタルヘルスに問題を抱える女性パートナーを物心両面で支える「彼くん」たちは、往々にしてパートナーを全面的に扶養し、メンタル面の不調をケアし、家庭内の家事や雑事についても率先してこなしている。一般的な男女関係とはだいぶ異なった関係性を「彼くん」とそのパートナーは築いているわけだ。
この関係性は、男女関係というよりは母子関係に酷似している。カール・グスタフ・ユングは母性の本質を「子を慈しみ育てる力」「狂宴的な情動性」「暗黒の深さ」の3つに求めたが、恋愛感情という情動性によってパートナーを慈しみ育てる「彼くん」の営みは、特に女性パートナーにとって母子関係のやり直しのような機能を持っているところがある。
つまり「彼くん」とは「第二の母親」としての機能を求められる存在なのだ。恋愛感情としいう狂宴的な情動によって、暗黒のように深く(ユングの文脈では愛に条件をつけないという意味合いがある)、パートナーを慈しみ育てる存在。その無条件の愛の中で、メンヘラ女性は世界に対する基本的な信頼感を取り戻し、少しずつ回復に向かっていく。
母性と父性のダブルバインド
問題は、「彼くん」が母性と父性の双方を一度に求められたときに生じる。
つまり、
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