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育休・産休制度のせいで女性の社会進出は遠ざかる

あまりに勘違いしている人間が多いので、議論を整理するためにそろそろまとめておこう。

産休・育休制度の拡充は「女性の社会進出」を阻害する効果しか持たない。保育園や企業内保育所の増設等も同様である。

「仕事と家庭を両立するための支援」は女性を就労から遠ざけ家事育児といった「女性的」なケア役割に女性を誘導する効果しか持たないのだ。これは論理の必然であるばかりか、諸外国の例を見る限り経験的にも明らかである。

にも関わらず、「女性の社会進出を後押しするため」として政府や企業が躍起になってこうした施策に血道をあげているのが日本の現状であり、結果ご存じのように日本における女性の社会進出は遅々として進んでいない。官民一体となって女性活躍の足を引っ張っているのだから当然だろう。無論これは「男性が女性 を抑圧している」式のいつもの物語陰謀論ではなく、産休・育休制度の拡充や保育園数の増設などをリードしているのは内閣府男女共同参画局のような女性が主体となっている女性行政だ。

本稿では「女性の社会進出」を達成するために何が必要なのかを、議論の根本に戻って再確認する。その上で育休・産休制度のような「仕事と育児の両立」式の支援がなぜ女性の労働参加を妨げるのかを具体的な根拠に基づいて論じていく。

なぜ反フェミニズムの急先鋒とされている筆者が「女性活躍」のための議論を整理しなければならないのかと多少考えてしまうところもあるのだが、こうした問題に関心があり、地に足のついた議論を志す諸君はぜひとも読んで頂きたい。


「女性の社会進出」とは何か

まずは巷で議論される「女性の社会進出」とはどのような状態を指すのかを改めて確認しておこう。

「日本はジェンダーギャップ指数120位の後進国!!」
「ヘルジャップランド!!!!」

などと喚き散らしている女性運動家のせいで、日本はあらゆる面で欧米先進国に劣っているのだ…と勘違いしている方も多いかもしれないが、実は諸々問題含みのGGI(ジェンダーギャップ指数)という尺度を用いても日本の「後進性」はごく限定された面にしか生じていない。

引用:男女共同参画局「共同参画」2022年8月号

GGI(ジェンダーギャップ指数)は「教育」「健康」「政治参画」「経済参画」の4部門によって測られるが、そのうちの2部門「教育」「健康」分野において日本のスコアは世界トップレベルである。つまり、日本においては男女に教育格差は存在せず、健康についても女性が男性より劣位な状況に留め置かれているわけではない、ということだ。無論これは当たり前のことではない。女性の高等教育へのアクセスが閉ざされている国や、女性の健康が男性と比して劣悪な国は多数ある。

ではなぜ日本のジェンダーギャップは大きいとされているのかというと、「政治参画」「経済参画」部門の極端な男女差である。上図でも赤字で強調されているが、国会議員の男女比、管理的職業従事者の男女比において、日本は他国の後塵を拝している。

つまり、日本の女性は高度な教育を受け十分に健康であるにもかかわらず、政治・経済分野のエクゼクティブになる比率があまりに少ないのだ。女性政治家、女性起業家、女性のCEO…。そうした「バリキャリ女子」の少なさが、日本のジェンダー領域における社会課題であるとされている。

ちなみに、GGIはバリキャリ女子の比率を強く重要視する指標であり、「教育」「健康」分野における男女格差がや女性の人権侵害が深刻でも、女性エクゼクティブの頭数さえ揃えればスコアが改善してしまうという問題点を有している。

例えばバングラデシュは2006年から2018年にかけてGGIの総合順位が91位から48位へと急上昇したが、「教育」「経済」分野における男女格差はむしろ12年前と比べ拡大している。ではなぜ総合順位が上昇しているかと言うと、初代大統領で長らく国父として扱われていたムジブル・ラフマンの未亡人が女性首相として政界に君臨していたからである。パワーエリート以外の一般女性の処遇は何も変わっていない(むしろ悪化している)にも関わらず、このようなネポティズム(縁故主義)から女性が要職に就くとGGIの総合順位は急上昇してしまうのだ。

同様の構図はGGI上位の開発途上国にはよく見られる。フィリピンもGGIの順位が高いことで有名な国だが、この順位の背景にあるのは元大統領の娘で50代で大統領職についたグロリア・アロヨの存在だ。つまり縁故主義が蔓延り権力者の娘や妻が要職に就きやすい国々ではGGIの総合順位は実態を伴わないままに上昇してしまう。幸い日本にはこのような悪習は希薄であり、要人の娘や妻だからと行って政財界で強い権力を握れるというケースはあまりない。

ちなみにバングラデシュのGGI総合順位(2018年)は48位だが、「教育」は116位、「健康」は117位である。国内では性暴力や児童婚などの人権侵害も根強く残っており、女性が安心して暮らせる国とはとうてい言い難い。

女性エクゼクティブを過度に重視してジェンダー問題を分析することにはこうした問題点があることは各自留意されたい。ちなみに女性エクゼクティブの数よりも生活水準や健康やリプロダクティブライツなどを重視するGDI(ジェンダー開発指数)やGII(ジェンダー不平等指数)などの指標においては、日本の総合順位は他の欧米先進国と遜色ないかそれ以上である。(GDIは76/191位。GIIは19/191位。2022年)


女性エクゼクティブを増やすには何が必要か

ここまでの議論を通じ、日本における男女格差とはすなわちエクゼクティブの男女格差であり、GGIに準じて「女性活躍」を推進する場合、その点に重点を置かなければならないことが確認できた。

それでは日本における女性エクゼクティブ増加はなぜ進まないのか。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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