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東京に飢えて サブカルクソ女の文化的な地獄

典型的なサブカルクソ女の半生は、だいたい以下のような感じになる。

地方の政令指定都市に生まれ、なんとなく地元や学校に馴染めない子供時代を送る。小学校では学校の図書館にひきこもり「変わった子」と言われて育つ。

中学のとき地元のイオンに入っているヴィレッジヴァンガードで同級生があまり読まないタイプの漫画を読み衝撃を受け、その後インターネット(もしくは深夜ラジオ、雑誌投稿)経由で東京のサブカル文化にどっぷりと浸かり始める。

高校は教室の端っこで文庫本(主に外国の古典文学)を読みふけることでなんとかやり過ごし、東京の学校に進学するためにそこそこ真面目に学業に勤しむ。

東京の私大文系学部(稀に美大)か、専門学校(デザイン、服飾、音楽etc)に進学し、渋谷、原宿、中野、高円寺などのサブカルエリアにアパートを探すが家賃の関係で断念。沿線の練馬、沼袋、西荻窪、江古田あたりに家賃6万円ほどのアパートを借り東京の拠点とする。

このくらいの時期に生まれてはじめて恋人ができるが、大抵は関係性が安定せず、抑圧された思春期の反動で一気に性関係が乱れ始める。バーテンダー、バンドマン、劇団員、DJ、中堅YouTuber、サブカル文化人あたりにヤリ捨てされる経験を何回か繰り返した末に、古着屋の店長が主催する飲み会で彼氏(20代後半のアパレル店員)を捕まえる。

大学や専門ではそこそこ真面目に学業に取り組み、特に制作系の課題には真剣に取り組むことも多い。「何者か」になるきっかけを常に探し回っており、サブカル文化人の集まるバーや、インフルエンサー主催のオフ会、ライブや展示会の打ち上げに頻繁に出没する。

就活では大手サブカル企業を何社か受けるが、全滅。

事務系の派遣や、サブカル系小売店の店員、小規模制作事務所などの東京で創作活動を続けられる職場に就職する。本業の手取りは18万円ほどだが、自分の創作に関連した仕事で月に1万円ほどの副収入がある。

社会人になると一気に創作活動へのコミットメントが減り、焦燥感が募り始める。創作の副業をなんとか本業にしようと死に物狂いで努力するが、労働に忙殺され中々時間が取れないことに悩む。

このあたりでサブカル文化人として頭角を現す同級生が現れ始め、ますます焦燥感が加速する。それら成功者はたいてい太い実家に庇護され、その安心感と豊富な財力で周りに差をつけているのだが、若いサブカルクソ女はそれに気づかない。純粋に自分の「才能」が足りていないのだと考え、自責し、努力しようと奮起し、しかし結局は労働に全てを塗りつぶされる。この地獄のような期間がだいたい卒業後5年から10年ほど続く。

5年後。20代後半になり性関係がだんだんと落ち着き始め、バンドマンやバーテンダーやサブカル文化人にヤリ捨てされる頻度が減り始める。

しかしFacebookを見ると地元の同級生は大抵結婚し出産しており、両親からもたびたび電話で婚姻・出産について問い詰められ始め、少額ではあるものの仕送りや援助物資をもらっている身としては強く反論もできず、自分はこれで良いのか自問自答し始める。

2年ほど付き合っている彼氏がいるが、結婚はあまり考えていない。恋人の収入が乏しい上に、出産になんとなく忌避感がある。自分が母親になる像があまり想像できず、地元の同級生がポンポン出産している様に一種の戦慄を覚えている。地元の同級生が一様に安定してそこそこ幸福そうなことに微妙なひっかかりを覚えており、彼女たちは何らかの理由(頭が悪い、センスがない、親や地元に騙されてる等)で「騙されている」のではないかという思いをうっすら抱いているが、表だって口にはできない。

上京10年目。アラサー。サブカルクソ女にとっての人生の分かれ道がここら辺で生じ始める。

ひとつめの選択肢は地元に帰って就職&結婚すること。親との関係性が良好なサブカルクソ女はこの道を選ぶことが多い。遅ればせながら地元コミュニティに復帰し、東京の土産話やコネを披露しそこそこの承認を得て、Uターン後2年ほどで家庭に納まり「ちょっと変わってるけど良い子」として地元に受け入れられる。

もうひとつの選択肢は東京で戦い抜くこと。創作活動がそこそこうまく行っていたり、長く付き合った恋人がいるとこちらのルートに分岐する。周囲のサブカル成功者を横目で見ながら、特にクリエイティブでもない本業の仕事に押しつぶされ、いつかそれを本業にすることを夢見て細々と創作を続ける地獄のような日々を30代以降も送ることになる。

東京で闘い続けるサブカルクソ女にとっての救済は二種類ある。東京のサブカル業界でプレステージを獲得した彼氏を捕まえて結婚すること、サブカル系の仕事を本業にすることのふたつだ。前者、後者ともに狭い道だが、それぞれ10%くらいは実現可能性があり、その可能性に人生を賭けて東京に踏みとどまるサブカルクソ女は少なくない。

そうして30代、40代、50代を、東京で低賃金労働者としてサブカルクソ女たちは過ごすことになる。彼女たちの老後がどうなるのか、それはわからない。サブカル第一世代(80年代に青春を送った層)はまだせいぜい60代であり、彼女たちの老後がどうなるのかと確たるデータはまだ得られていないからだ。しかし成功者であるクリエイター層ですら顕著に平均寿命が短いことが指摘されており、クリエイターになれなかった彼女たちが健康で豊かな老後を送れる可能性はあまり高くない。

40代ごろから親の介護という新たなファクターも誕生する。そのくらいの歳で地元に帰ると就職&婚姻はほぼ絶望的で、残りの人生を親の介護だけに忙殺されることを余儀なくされることも多い。

「何者か」になるか。「何者か」の男を捕まえるか。若いうちに実家に戻るか。これらの選択肢を採れなかったサブカルクソ女は、その後ハードな人生を送ることになる。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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