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男女差別の原因は、本当に「男女の筋力差」なのか?

「性別反転もの」というジャンルがある。

主に「ジェンダーSF」などと呼ばれるジャンルの表現方法のひとつで、性規範や性差別がもしも男女逆転したら?というifを描く表現方法として使われることが多い。

それらの世界では、男性が虐げられ、女性が権力を謳歌する。

これらは一種の「現実の戯画化」、つまり「女性が虐げられ、男性が権力を謳歌する現実世界」を表現したものだと説明されるわけだが、まぁそのような世界観が全く以て現実を反映していないのは、この記事を読んでいる男性の多くは理解しているだろう。

性別反転ジャンルにおけるミラーリング(やり返し)は、本当にお粗末なことが多い。「女性はこんなにつらいんだ!」という事例として提示されているものが、全く現実を反映していないのだ。

女性が男性の生きづらさを理解できない(それどころか自らの女性としての生きづらさを客観的に提示することすらできない)のは今に始まったことではないので、本稿ではあまり紙面を取らないが、気になる各位は一度あれらのジャンルを鑑賞してみると良い。他者に共感し、他者を理解をする。少なくともそれを試みる。そういう美徳が全く以て存在しない世界に、震撼すること請け合いだ。

さて、個人的に極めて興味深いのが、性別反転ジャンルにおいて、男女の権力勾配の原因が「肉体的な強さ」にあると考えられていることだ。

性別反面ジャンルについて書いたこちらの記事から一部を引用する。

今回は、「男女の権力が反転したディストピア」を描いた3つの作品をご紹介しました。

興味深いのは、3つの作品すべてが、女性が支配する世界を描きながら、同時に、女性を男性よりも肉体的に強い存在として描いている点です。『軽い男じゃないのよ』は実写なので、男性より女性の方が肉体的に強いふうには見えないのですが、女性がジムに通って鍛えているシーン、筋肉を強調するシーンなどが入れられており、女性の方が体力的にも優っている世界であることが示唆されています。『パワー』『ピュア』は、男女間で圧倒的な力の差があり、女性の肉体的な力は容易に男性をレイプしたり殺したりできるほど強いものです。

反転させた世界でも、肉体的な強さが、権力関係に強い影響を与えている。だとしたら、肉体的に男性より弱い個体である女性が、男性と同じだけのパワー(権力)を持つ時代は、永遠にこないのでしょうか?

(引用:ほんとに「女が強い時代」って、こういうこと? 「女が支配する社会」を描いたディストピア作品3選

これは極めて興味深い視点だ。

確かに多くの性別反転ジャンルにおいて、「男性化した」女性は一様に肉体美を誇っていることが多い。

性別反転ジャンルではなくとも、ジェンダーSFにおける女性性を超克したヒロインは、みな筋肉モリモリのマッチョウーマンだ。「マッド・マックス」のフュリオサや、「エイリアン」シリーズのリプリー、「GIジェーン」のオニールを思い浮かべてみるとわかりやすい。

どうも、多くの女性は「男女の権力勾配は男女の筋力差によって生じている」と考えているらしい。つまり、男の方が力が強く、暴力によって女性をねじ伏せることが出来るので、男女の権力勾配は埋まらない、という世界観だ。しかし、それは本当だろうか。

本稿では多くの女性が信じている「男女の権力勾配は男女の筋力差から生じる」というテーマについて、その妥当性を批判的に検討していく。


筋力と権力の関係性

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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