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オタクでもわかる「まともな服」の選び方

最近、複数の読者から「服の選び方を教えてほしい」というDMを同時多発的に頂いた。なんでも夏に向けて一念発起し、服を買ってマッチングアプリに登録し、素敵な彼女を作って最高の夏をエンジョイしたい!ということらしい。

DMを送ってくれたのは大学生からアラサー社会人まで年齢層はバラバラだったのだが、6月半ばというこの時期、男たちは既に夏の疾走に向けウォーミングアップを始めているわけだ。まこと天晴れ。日本男児たるものこうでなければならない。

とはいえ、体形も顔も性格も知らない他人におすすめの洋服をサジェストするのは難しい。やってやれないことはないのだが、そもそも服というのは「誰が、なぜ、その服を着ているのか」というコンテクストが極めて重要なシロモノであり、「他人に指示された服を着ているだけ」という状態では本人のマインドも相まって中々理想的な状態にはたどり着きづらい。

そもそもいい歳して「服の選び方」をゼロから聞くような人間は、高確率でオタク気質を持っており、ファッションや服飾というものに対して一切の興味を有していないことが多い。もちろんそれが悪いわけではないのだが、どうしても付け焼き刃になってしまうことは否めないだろう。オタクが「にわか」を敏感に察知するように、世の一般女性も「オタクっぽさ」の徴候を鋭敏に察知してそれを遠ざける習性を有しているのである。

というわけで本稿では具体的な服の選び方ではなく、「なぜオタクのファッションはダサいのか」という根源的な部分について解説していこうと思う。もちろん具体的に何をどうすれば良いのかについても説明するが、本当に必要な情報は「何をするべきか」ではなく「なぜそれを今までやらなかったのか」である。やるべきことなど誰もが薄々わかっているのだ。わかっていても長年それをやらなかった理由にこそ問題の本質がある。

本稿は「オタクのダサさ」問題に対する、筆者からの最終回答である。


オタクの服はなぜダサいのか

ゼロ年代初期に「脱オタファッションガイド」という書籍がベストセラーになったことがあった。「脱オタ」と「ファッションガイド」がなんの違和感もなく結びつくというのは考えてみると中々すごい。「脱サラ」と「ファッションガイド」ならこうはいかないだろう。つまり日本では古来より「オタク=ダサい」という方程式が所与のものとして扱われているのである。

TikTokなどを見ると未だにチェックシャツがキモ・オタクの定番アイテムとしてアイコニックに消費されていたりするし、ドラマや漫画などのフィクションの中でもオタクの服は小汚いものとして描写されがちだ。これがどこまで現実を反映しているのかはさておき、「オタク=ダサい、キモイ、小汚い…」というイメージは本邦に強く根付いている。

しかし、それではオタクという人種は審美眼を有さない人々なのだろうか。もちろん答えはNOである。それどころか、世界的に最も評価された日本人アーティストはほぼ全員がオタクと言っても過言ではない。

「メンズノンノ」や「セブンティーン」などの日本ファッション誌が世界的に評価され欧州やアジアで飛ぶように売れるといった事態はこれまで一度も生じていないが、ガンダムやエヴァンゲリオンのグッズは世界中で売れ続けている。ジャニーズJr.や乃木坂46が海外スタジアムを観客で埋め尽くしたことは一度もないが、ホロライブやにじさんじのVtuberは英語圏や中国語圏に膨大なファンを有しており海外展開も極めて盛んだ。

もちろん興行収入だけでコンテンツの良し悪しを評価することはできないが、少なくともグローバルな基準において、日本の「オタク文化」は日本の「陽キャ文化」を遥かに凌駕していると言えるだろう。その愛好者たるオタクの審美眼が、いわゆる「一般人」と比較して極端に低劣であるということはほとんど考えられない。もし美というものが普遍的な価値概念であるのなら、明らかに普遍性を有しているのは陽キャではなくオタクである。

…それでは、日本におけるオタクのファッションも、審美眼というものを有さぬ陽キャたちの目が節穴であっただけで、実は美しいものだったのだろうか。もちろんそんなことはない。オタクの服はダサい。

(引用:24年前の宮崎駿監督の姿

日本のアニメーションを牽引し、ジブリ博物館には毎年海外からの観光客が押し寄せ、名実ともに世界的巨匠と言える宮崎駿。そんな彼の48歳時のファッションがこれである。テレビの前に出てさえこれなのだから、普段は推して知るべきと言えよう。最近は取材が増えたせいか謎のエプロンなどで身なりを固めるようになったが、青年期から壮年期にかけてのパヤオファッションは根暗そうなオッサンとしか評せない。

(引用:押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?第56回

続いてこちらは押井守。「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」で一世を風靡し、ジェームズ・キャメロンやウォシャウスキー姉妹などの世界的巨匠から愛された日本が誇る映像アーティストの一人である。であるのだが、どう見ても風貌は涼んでるホームレスにしか見えない。薄毛を放置したもじゃもじゃの髪くらいは汚らしいからなんとかせえやと他人事ながら口を挟みたくなってしまうのだが、驚異的な映像表現でSFの新時代を築いた人物の装いとはとうてい思えない。

オタクのファッションを考える上でヒントになるのが、こうした「巨匠」たちの驚くべきダサさである。彼らの審美観やセンスが余人と比して卓越していることは疑いようがないが、しかし、どう見ても、彼らはダサいのだ。

この現象はこのように一般化することができる。

オタクは優れた審美眼を有しているはずなのに、なぜか死ぬほどファッションがダサい。

息を吞むような美しい写真を撮るカメラ・オタクが垢で擦り切れて黄色くなったダボダボのTシャツを着ていたり、胸を打つ哀切な物語を紡ぐ同人作家が30過ぎなのに高校時代のジャージを着ていたりと、こうした事例は枚挙に暇がない。

美的センス、詩的感覚、空間把握能力、色彩感覚、創造性、表現力…そうした才能を有り余るほど持っているオタクでも、なぜか服装や髪型だけは死ぬほどダサいことが珍しくないのだ。一体なぜ、彼らは有り余る才能のほんの1%でも自らの容姿改善に費やそうとしないのだろうか。

結論から言うと、オタクの服がダサい理由は、オタクという存在の本質によって生じている。つまりオタクとは、

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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