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なぜ性犯罪者はフェミニストになりたがるのか

ある一人ひとりの前科者が、残念ながら再び罪を重ねてしまった。

「ヒステリックブルー」元ギタリスト、強制わいせつ致傷容疑で逮捕 埼玉県警

埼玉県警朝霞署は23日、1990年代後半~2000年代初頭に活躍した人気ロックバンド「ヒステリックブルー」(解散)の元ギタリストで甲府市の自営業、二階堂直樹容疑者(41)を強制わいせつ致傷容疑で逮捕した。

逮捕容疑は7月6日午前2時15分ごろ、埼玉県朝霞市の路上で、わいせつな行為をしようとして帰宅途中の20代女性の口を後ろから塞いで押し倒し、右腕に軽傷を負わせたとしている。女性が大声を上げたため逃走した。

元「ヒスブル」のナオキ氏は、とある事情でWEBの片隅では有名だった人物だ。それは男性フェミニストとしての活躍と、前歴の暴露による失墜というドラマチックな物語に因る。

強者である「余裕」ゆえにフェミニズムに寄り添うのではなく大切なのは「社会的弱者への想像力」なんだよな。それは自らが強者だろうと弱者だろうと関係なく(少なくとも男性である時点でこの社会では女性に対する強者だ)
女性はこの男尊女卑社会で生きることそのものが既にフェミニズムに密着しているしヘイトクライム被害も多いので文字通り命懸けだよね。でも男だと「昨日まで知りませんでした」「気が向いた時だけやります」って言える立場なの。それを考慮せず「こうした方がいいですよ」って主導権握ろうとすんなよ。

(引用:マギー塾「男性のフェミニズムへの関わり方」

ナオキ氏=マギー氏は、徹底的に男性社会を糾弾し、女性を社会的弱者と見なし、その権力勾配と搾取構造を男性が自覚すべきだと考える典型的な男性フェミニストだった。

男性を鋭く糾弾するその筆致は一定の(主に女性)ファンを獲得し、影響力を拡大させた氏は「マギー塾」なるコミュニティを開き、オンラインのみならずオフ会を通じてリアルでも多くの女性ファンと交流を持ち始めた。

多くのフェミスト・アカウントの賛同を得た彼は、短期間でSNSフェミニストの寵児に上り詰めようとしていた。ーーとある告発によって彼の前歴が明らかになるまでは。

元ヒステリック・ブルーの赤松直樹さん、出所後になんとフェミニスト&左翼活動家になっていた!

「被害女性の依頼」によって行われたこの告発によって、マギー氏はSNS上における全てのプレスティージを失った。その後彼はアカウントを削除し、1年近くSNS上から忘れられることとなる。再び罪を犯すその日まで。


多発する男性フェミニストの性犯罪

実のところ、ナオキ氏のような事例はそれほど珍しくない。男性社会の加害性を糾弾する男性フェミニストが、その裏で女性に対する性犯罪を行っていた…。そんな事例は、特に欧米において枚挙に暇がないからだ。

例えば英語版のGoogleで「male feminist」(男性フェミニスト)を検索すると、真っ先に出てくるサジェストワードは「predator」(捕食者)だ。

これは英語圏で「男性フェミニスト」を名乗って活動してきた多くの男性活動家が、その後、性犯罪の前歴を告発されたことを反映している。

性犯罪者たちはフェミニズムを利用してキャリアを築いてきました。2015年に「Vive」で「いまここにいる男性フェミニスト」という風刺的なコラムを書いたミシェル・ハフォードは、後にレイプ、暴行、および少なくとも4人の女性への暴行のために解雇されました。
チャールズ・クライマーは、「男性フェミニスト」であるとして2010年代初頭にリベラルなソーシャルメディアで有名になりました。しかし2014年、彼は性的虐待者として「キャンセル」されました。
フェミニスト系アパレル企業の創設者であるアラン・マルトフェルは、「キャットコールに対抗する猫」や「ジェンダーロールではなくピザロール」などのスローガンを掲げたキュートなフェミニストTシャツを販売することで名を馳せました。2018年、性的虐待者としての過去が判明し辞任を求められたとき、彼は自分が辞任する代わりに女性スタッフ全員を解雇しました。彼の会社は未だ順調に経営されているようです。

(引用:「The rise of the ‘male feminist’ doesn’t demonstrate a win for feminism」翻訳は筆者)

このような事例が連続した結果、「男性フェミニストはフェミニズム活動を隠れ蓑に女性を狙う性犯罪者だ」という風潮がミーム化

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(引用:Know your meme

この風潮はマノスフィア(manosphere)だけに留まらず一般層にまで波及し、多くの女性が「男性フェミニストってなんかヤバいんじゃないか」という懸念を表明するに至っている。

一例として、「Gurdian」紙に掲載された女性作家ケイト・アイゼリン氏のコラムを紹介しよう。英語圏の雰囲気をよく伝えている。

しかし、「フェミニストに承認されたロマンス」を求める男性は、2つのカテゴリーのうちの1つに分類される傾向があります。 私たちの魅力を承認の印として利用し、家父長制的な悪行への良心を晴らすためのトロフィーフェミニストを探している人。そして乏しいジェンダー論を利用してセックスに肯定的な若い女性をターゲットにしている明らかな捕食者です。

(引用:Why I won't date another 'male feminist' 翻訳は筆者)

女性に優しく、男性社会による搾取を批判する男性フェミニストが、なぜ女性に対する性犯罪を繰り返すのだろうか。

実のところこれは順序が逆で、性犯罪を犯しているからこそ、男性フェミニストになるインセンティブが生まれているのだ。

以下の部分ではその理路について詳しく説明していく。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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