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カルト宗教家とゴシップ紙の反戦運動

「角川文庫発刊に際して」という名高い文書がある。

それほど長くないので引用しよう。

角川文庫発刊に際して 角川源義

第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗退であった。私たちの文化が戦争に対して如何に無力であり、単なるあだ花にすぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した。西洋近代文化の摂取にとって、明治以降八十年の歳月は決して短かすぎたとは言えない。にもかかわらず、近代文化の伝統を確立し、自由な批判と柔軟な良識に富む文化層として自らを形成することに私たちは失敗して来た。そしてこれは、各層への文化の普及滲透を任務とする出版人の責任でもあった。

一九四五年以来、私たちは再び振出しに戻り、第一歩から踏み出すことを余儀なくされた。これは大きな不幸ではあるが、反面、これまでの混沌・未熟・歪曲の中にあった我が国の文化に秩序と確たる基礎を齎すためには絶好の機会でもある。角川書店は、このような祖国の文化的危機にあたり、微力をも顧みず再建の礎石たるべき抱負と決意とをもって出発したが、ここに創立以来の念願を果すべく角川文庫を発刊する。これまで刊行されたあらゆる全集叢書文庫類の長所と短所とを検討し、古今東西の不朽の典籍を、良心的編集のもとに、廉価に、そして書架にふさわしい美本として、多くのひとびとに提供しようとする。しかし私たちは徒らに百科全書的な知識のジレッタントを作ることを目的とせず、あくまで祖国の文化に秩序と再建への道を示し、この文庫を角川書店の栄ある事業として、今後永久に継続発展せしめ、学芸と教養との殿堂として大成せんことを期したい。多くの読書子の愛情ある忠言と支持とによって、この希望と抱負とを完遂せしめられんことを願う。

一九四九年五月三日 

第二次世界大戦が完膚なきまでの敗北に終わったあと、「一億総懺悔」の語に代表される徹底的な自己否定と内省が日本国内に流行した。

出版、新聞などの文化報道活動に携わる人々もまた例外ではない。戦前のマスメディアが積極的な戦争協力に走っていたことは今や常識の範疇だろう。日本帝国主義の走狗として戦争翼賛報道を手掛けてきたメディア人たちは、戦後の荒廃の中で徹底的な自己反省を強いられることになった。先に引用した角川源義による文書もそのような文脈の中で綴られている。

その結果として生まれたのが現代にまで続く戦後日本のマスメディアだ。自らを権力監視のシステムと位置付け、政府を仮想敵とし、反戦と反権力を二つの柱に言論空間を主導してきた戦後メディアの在り方、それはこれを読むみなさんもよくご存知だろう。

そんな日本的メディアを当たり前なものとして育ってきた筆者は、ふとした折にこんなことを夢想することがあった。次の戦争が起こるとき、果たしてメディアは「反戦」を貫くのだろうか?と。

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