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高齢者とワーキングプアはどちらが「弱者」か?

「高齢者とワーキングプアはどちらが弱者か?」

唐突だが、この問いについて考えてみてほしい。

今回の選挙では昨年の衆院選に引き続き「日本維新の会」が大きく躍進した。今回の選挙では12議席を獲得し、非改選議席を合わせると21議席となる。名実ともに野党勢力の雄と言って間違いないだろう。

さらに注目すべき点が、比例獲得議席数で維新が立憲民主を上回ったことだ。維新の会の比例得票数は14.7%。立憲民主党の12.7%を着実に超えている。1998年の民主党結党以来、参院選の比例獲得議席数で民主党系の政党が他の野党に敗れたのは始めてのことだという。

筆者としては今回の参院選は立憲民主党の衰退と日本維新の会の躍進が印象に残った。ある意味でこれは、単に野党の勢力図が変化というだけではなく、日本の政党政治の「対立軸」の変化を物語っているとも言えるからだ。

なぜ維新の会は躍進し続けているのか。それを考える上で重要になるのが冒頭の問いだ。

「高齢者とワーキングプアはどちらが弱者か?」

日本の「平等」をめぐる逡巡と対立は、この問いに凝縮されていってると言っても過言ではない。


高齢者 vs ワーキングプア

高齢者とワーキングプア。この両者を比較検討するために、まずはそれぞれの実像を明らかにしていきたい。

まずはワーキングプアについて考えてみよう。ここではワーキングプアの典型としてフルタイムの派遣労働者を想定する。

厚生省が発表している「労働者派遣事業報告書(H30)」によれば、一般派遣労働者の1日あたり(8時間)の平均賃金は13,831円だ。年間労働日数を240日として、年収は331万9440円派遣労働者の年齢中央値は40-44歳なので、20代-30代ならこの額よりも50-100万円ほど低くなる可能性が高い。病気や障害などを持たない平均的な派遣社員の年収としては実像に近い数字と言えるだろう。

毎日フルタイムで1年間休まず働いて40代で年収330万円。地域にもよるが、決して豊かとは言えない金額だ。東京や大阪などの大都市部であれば生活するだけで余裕はほぼなくなるし、男性の場合は結婚を考えると相当な苦戦を強いられる。年収200-300万円代の派遣社員では結婚相談所の入会条件さえ満たせない。ちなみに男性非正規雇用者の生涯未婚率は6割にまで達している。

次に、高齢者について考えてみよう。

仕事を定年退職し、老後生活を貯蓄と年金収入で賄う、日本に4000万人近く存在する典型的な65歳以上の高齢者だ。

内閣府の編纂する「高齢社会白書(H29)」によれば、高齢者世帯の平均貯蓄額は2396万円だ。

「平成29年版高齢社会白書」高齢者の経済状況

中央値でも1592万円とかなり高い水準にあり、4000万円以上の貯蓄を有する世帯も18.2%とかなりの数が存在する。

これに加えて、年金収入も生活が困らないだけの額が支給されている。厚生省の「国民生活基礎調査(R1年)」によれば、高齢者世帯の年金所得は平均199万円に達する。これに加えて不動産や金融資産による財産所得等も加わるわけで、高齢者世帯の経済状況は相当に恵まれてると言えるだろう。

実際、生活に経済的な苦しさを感じている割合は現役世代よりも高齢者世代の方が低い。厚生省「国民生活基礎調査(R1)によれば、「生活が苦しい」と感じている世帯は全世帯においては54.4%だが、高齢者世帯は52.0%になる。現役ど真ん中である子育て世代は62.0%だ。稼得所得がゼロに近い高齢者世帯の方が、現役世代より生活に「ゆとり」を感じているのだ。

引用:「国民生活基礎調査(R1)」各種世帯の所得等の状況

潤沢な貯蓄、働かなくとも貰える年金収入、低い医療費負担…。「高齢者大国」日本において、高齢者の老後は悠々自適と言って差し支えないだろう。

さて、冒頭の問いをもう一度繰り返そう。

「高齢者とワーキングプアはどちらが弱者か?」

本稿をここまで読んでくれた方のほとんどは「ワーキングプアの方が弱者だ」と考えるだろう。感覚的には議論の余地すらないように思う。

日々休まずフルタイム労働に勤しんでやっと生活できるギリギリのラインを生きるワーキングプア。たっぷりの貯蓄に働かなくても貰える潤沢な年金で悠々自適の老後を過ごす高齢者。両者の力関係はあまりに明白なように感じられる。

しかし、日本の徴税システムはワーキングプアではなく高齢者を「弱者」と見做しているのだ。ここに日本の世代間対立、そして「維新の会」躍進の鍵が隠されている。


累進課税の機能不全

日本の税制の基本は「累進課税」だ。特に税収の過半数を占める所得課税においては、ほとんどが累進課税によって税率が決定されている。

累進課税とはざっくり言えば「高所得者から多めに税金を取り、低所得者に分配する」制度だ。金持ちから取り貧乏人に分配する。一見するとこれはワーキングプアにとって優しい制度に感じられるだろう。

しかし驚くべきことに、現行の累進課税制度においてワーキングプアとは「分配される側」ではない。むしろワーキングプアは「多めに税金を払う側」であり「弱者を支える側」とされている。

なぜなら

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