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「ライター」という仕事は「インフルエンサー」に変わりつつある

なんというか、色々と考え込んでしまう記事を見つけました。デジタルマーケティングカンパニーが実施した「大人のなりたい職業」に関するアンケート調査についての報道です。

PLAN-Bは12月2日、「大人のなりたい職業」に関するアンケート調査の結果を発表した。調査は11月16日~17日、全国の10代~70代の男⼥1,231名(男性409名/女性822名)を対象にインターネットで行われた。

「大人がなりたい職業ランキング」1位は、「ライター(Webライター)」(56人)だった。「在宅でできる」「場所や時間を縛られることがない」というメリットに魅力を感じている人や、「文章を書くのが好き」という人が多かった。

「大人がなりたい職業」の1位が「医師」や「投資家」や「プログラマー」を押しのけて「WEBライター」になってしまう。

もちろん回答者母集団の7割近くが女性であることなどは割り引かなければならないんでしょうけど、「ライター」という仕事がここまで多くのひとの羨望の対象になっているとは。現場を知る人のほとんどは絶句してるんじゃないでしょうか。

たぶん「在宅でできる」「場所や時間を縛られることがない」というイメージがあるからなんでしょうね。ちょっと前に流行った言葉にノマドワーカーなんてのがありましたが、時間的・空間的な制約に縛られず自由な働き方を目指せる職業として「ライター」が注目されているのでしょう。

さらにちょっと意地悪な見方をすれば「ライターなら自分にもできそう」という方も多いんでしょうね。「医師」は医学部受験を突破する必要があるし、「プログラマー」はプログラミングを勉強しなきゃならない。医学部受験やプログラミングに比べればライター業は取っ付きやすいイメージがあります。確かに、それは1割くらいは真実です。

一応、自分は2011年から大手WEBメディアで編集者としてのキャリアを開始して以来、もう10年以上WEBメディア周りの業界をうろついています。媒体ライターとしての仕事も数え切れないほど頂いてきましたし、自分でメディア事業を立ち上げてそこそこの所まで成長させたりもしています。

というわけで本日は、WEB編集者&WEBライターとしての目線から、「ライター」というお仕事の現在と未来について書かせて頂こうと思います。


昨日までのライター業界

まず、これはほぼ全ての同業者が頷いてくれると思うんですが、ライター業は食えません。薄給です。仮に売れてもタカが知れてます。コンビニバイトの方がマシという時給で働いてるライターがほとんどです。

ライター業が薄給になる理由は色々あるんですが、まず第一には出版不況。特に雑誌の発行部数が底抜けに低下し続けてることが大きいと言われています。

無題

(引用:一般週刊誌の部数動向をさぐる(2020年10~12月)

ライターというのは要は物書きですから、本を書いたり記事を書いたりして飯を食ってるわけです。しかし今の時代は本が売れません。特に「雑誌」というメディアは紙幅が多く職業ライターにとっての命綱のような存在だったのですが、インターネットやスマートフォンの普及によりほとんど過去の遺物と化しています。

上のグラフにあるように、この20年ほど雑誌の発行部数は右肩下がりです。2020年には全盛期の1990年代の1/4程度まで部数が落ちています。雑誌に連載を持つライターというのはライターヒエラルキーの中でもトップ層だったわけですが、この層ですら生活が厳しくなっています。

それならWEBライターは?とお考えになったと思いますが、ぶっちゃけて聞きましょう。みなさんはWEBメディアの記事を課金して読んでますか?もちろん「YES」と答える徳の高い方も一定数いらっしゃるとは思うのですが、無料記事しか読まない、もしくは読む記事のほとんどは無料記事という方が多いはずです。

そうしたWEBの無料メディアというのは基本的に広告収入で食ってるわけなんですが、広告収入の相場というのは1000PVあたりせいぜい200-400円ほど。つまり1万PV集めたところで3000円程度しか儲からないわけです。これでライターの報酬が高くなるわけがありません。

さらにライター業というのは稼げない割に人気が高い仕事です。特に何らかの理由でフルタイム就労が難しい層(子育て中の主婦や病気や障害のある方など)からの人気が高く、人材供給が常に安定しています。

これは一見すると良いことですが、裏を返すと「安く買い叩かれやすい」ということでもあります。人件費というのは需要と供給の関係で決まるわけで、需要(書籍や雑誌やWEBメディアの売り上げ)が落ちてるのに供給(ライター志望者の数)は減ってないわけですから、これでライターの報酬が高くなるわけがありません(2回目)。

というわけで端的にまとめると、「ライター」という仕事はお金を稼ぎにくい割に競争が激しいという「職業」として見れば最悪の仕事になっています。これが偽らざるライター業の現実です。ただし「昨日まで」の。


「ライター」は「インフルエンサー」に変化した

さて、そんなライター業ですが、最近は少しずつ、しかしドラスティックな変化が生じつつあります。一番大きな変化は「メディア」から「個人」に軸足が移りつつあることです。

過去のライターは、「媒体」ありきの存在でした。有名なメディアで記事を書かせてもらうことがキャリアを築く上で極めて重要だったわけです。

それもそのはずで、雑誌をはじめとする各メディアが数百万規模の読者を握っていたわけですから、「多くの読者の目に留まるメディアで書かせてもらう」ことがライターの人気獲得にとって必須だったのは当然です。特に「週刊文春」などの人気週刊誌は週刊少年紙並みの発行部数を誇り、そこに記名記事を載せることは人気や知名度を獲得する上で死活的に重要な意味を持ちました。

それはWEBメディアにおいても同様です。「ねとらぼ」や「オモコロ」などの人気メディアに記事を載せればSNSのフォロワー数は急増します。といっても過去の人気週刊誌ほどの神通力はなかったわけですが、2010年~2018年あたりまでは大規模WEBメディアもまだまだ影響力を持っていました。

それがここ数年で大きく変わり始めています。読者の購読行動が「メディアありき」ではなく「クリエイターありき」になってきているのです。

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