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獣の自由 檻としての公共

ミュージシャンの小山田圭吾さんという方が、学生時代の「いじめ」の過去を理由に五輪開会式の楽曲担当者を降ろされたらしい。

音楽に全く疎いもので、小山田さんという方のことは個人的には存じ上げなかったのだが、報道を追っていくうちに「あ、あの人か」と腑に落ちた。

というのも彼は、2ちゃんねるの有名なコピペになっていたのである。

「ロッキンオン・ジャパン」平成8年1月号(1996年)、小山田圭吾2万字インタビューより引用
「あとやっぱりうちはいじめがほんとすごかったなあ」
●でも、いじめた方だって言ったじゃん。
「うん。いじめてた。けっこう今考えるとほんとすっごいヒドイことしてたわ。この場を借りてお詫びします(笑)だって、けっこうほんとキツイことしてたよ」
●やっちゃいけないことを。
「うん。もう人の道に反してること。だってもうほんとに全裸にしてグルグルに紐を巻いてオナニーさしてさ。ウンコを食わしたりさ。ウンコ食わした上にバックドロップしたりさ」
●(大笑)いや、こないだカエルの死体云々っつってたけど「こんなもんじゃねえだろうなあ」と俺は思ってたよ。
「だけど僕が直接やるわけじゃないんだよ、僕はアイディアを提供するだけで(笑)」
●アイディア提供して横で見てて、冷や汗かいて興奮だけ味わってるという?(笑)
「そうそうそう!『こうやったら面白いじゃないの?』って(笑)」
●ドキドキして見てる、みたいな?
「そうそうそう!(笑)」
●いちばんタチ悪いじゃん。
「うん。いま考えるとほんとにヒドイわ」

全裸緊縛強制食糞ミュージシャンコーネリアスこと小山田圭吾
http://www.myhomepage.vgocities.net/aoiryuyu/cornelius.htm

いじめ犯罪者小山田圭吾

「いじめ犯罪者小山田圭吾」「全裸緊縛強制食糞ミュージシャンコーネリアス」のパワーワードがなんとなく頭に引っかかっており、報道を眺めて「あぁ、あのコピペの人か」と得心した。

このコピペはたしか数パターンあり、一時期は音楽関係でもなんでもない全くの無関係のスレッドにもコピペ爆撃されていた記憶がある(まぁゼロ年代の2ちゃんねるというのはそういう場所だが)。

ちなみにこのコピペは20年ほど前から定期的に貼られ続けている。コピペ荒らしの正体が何者なのかは当然謎に包まれているが、よっぽど小山田氏に恨みがあるか、「いじめ」という犯罪に対し思う所がある御仁なのだろう。


いじめ後遺症

さて、「いじめ」という話題の着火力を鑑みると、「いじめ」という営為がどれほど大きな負の影響を人の心に残すのかと、改めて暗澹たる気分になる。

いじめとは(おおむね)小中高の子供時代に特有の現象であり、多くの人が大人になるにつれそんな事が学校内であったことすら忘れていく。しかし被害者にとって、いじめとは「過去」ではなくいつまでもいつまでも「現在」の問題なのだ。

なぜなら「いじめ」を受けた被害者の多くが、心と脳を完全に破壊され、精神疾患を発症し、または社会的ひきこもりとなり、二度と社会に出ることなくそのまま崩れていくからである。

ひきこもり問題に詳しい精神科医の斎藤環氏によれば、「ひきこもり」とされている人たちのかなりの部分はいじめ後遺症を原因としていると言う。

斎藤 私は長年にわたり、ひきこもりの臨床現場にかかわってきました。その経験からひきこもりの約1割程度の人はいじめをきっかけに不登校になり、ひきこもりになっていることに気づきました。いじめの時期がいつだったか、いじめから何年後のことかといったことは問いません。とにかく過去にひどいいじめを受け、それがトラウマになり、成人してからでもひきこもり、うつ病、自殺につながることがあると提唱してきました。

ーー具体的なエビデンスはありますか。

斎藤 東大の精神科医、滝沢龍さんが中心になって進めたコホート研究で、イギリスの7歳から11歳までの間にいじめ被害を経験した約8000人に対し追跡調査を行ったところ「うつ病、自殺」などのリスクが2割近く高くなったというデータがあります。この事実にもっと多くの人は着目すべきだと思います。

ーーいじめ後遺症とは具体的にどんなものものですか。

斎藤 いじめられた経験が心の傷になり、人と関わることに恐怖、不安感を抱きます。特に同世代の人に強い恐怖感を覚え、人付き合いが苦手で、職場にもなじめず生きづらさを覚えている人は少なくありません。いじめを受けて10年、20年たってから病院を受診してくる人もいます。最悪の場合、自殺にいたるケースもあります。いじめが起きた時、親も学校も適切な対策をとらず、卒業すればそれで終わりと考えがちですが、当事者はいつまでたっても癒えない生傷を心に抱え続けているんです。

(引用:「いじめによるトラウマ、後遺症は残る」 精神科医 斎藤環さんに聞く

いじめを契機に精神を病み、社会に出ることなくひきこもりや精神障碍者になってしまい、「なぜ自分はこんなに苦しい人生を歩まねばならないのか」と自問自答し続ける人たちにとって、文字通りの意味で「いじめ」とは現在進行形の問題である。

現在進行形の問題だからこそ、自分が被害を受けたわけではない第三者のいじめ問題に対しても、自分自身のトラウマを投影して、悲しみや怒りが湧き出てしまうのだろう。「いじめ」問題がSNS上で極めて可燃性の高い話題となっているのはおそらくそういうことで、小さな燻りから今なお燃え盛るトラウマまで、多くの人々の焔が集まり巨大な炎上が出来上がってしまう。


加害者の「処罰」が被害者を救う

メンタルヘルス業界を見渡すと、PTSDの原因となったトラウマ的出来事のTOP3は以下であるように思う。

・虐待
・いじめ
・性犯罪

この三つだ。それぞれが極めて侵襲的に人の心を傷つけるだけではなく、発覚しにくいという特徴を持っている。特に虐待といじめは構造が極めて似通っており、それぞれ家庭・学校という密室で行われ、警察力に依っても、司法に依っても、その加害が裁かれないことが非常に多い。

前出の精神科医 斎藤環氏によればいじめ後遺症を防ぐ処方箋のひとつは「加害者の処罰」であるという。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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