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「フェミニズム版ソーカル事件」を起こした哲学者、大学から追放される

「第二のソーカル事件」と呼ばれる事件が2017年に起きたことをみなさんはご存じだろうか。

「ソーカル事件」とは言わずと知れたポストモダン思想史における大事件だ。1990年代初頭、ニューヨーク大学の物理学教授だったアラン・ソーカルはポストモダン思想と呼ばれる知識体系に疑問を抱く。当時のポストモダンは数学や物理学の知識を援用して社会構造を論ずることが流行していたが、本職の物理学者であるソーカルには彼らの科学知識があまりにも不確かに思えたのだ。

ポストモダン思想の学術的欺瞞を告発するために、ソーカルは一計を思いつく。ポストモダン思想の文体を真似たデタラメな論文を専門の学術誌に送りつけ、それがアクセプトされるかどうか試すことにしたのだ。

かくして「境界を侵犯すること:量子重力の変換解釈学に向けて」と名付けられたデタラメ論文が1994年に執筆された。論文は(意図的に)支離滅裂かつデタラメに書かれていたにも関わらず、なんとポストモダン思想の専門学術誌に掲載されてしまったのだ。

「ソーカル事件」と呼ばれるこの事件は、ポストモダン思想の学術的威信に多大な影響を与えた。フランス現代思想を始めとするポストモダン思想は80年代から90年代にかけて学術界を超えた一大ブームになっていたが、そのブームの沈静化はこの一件に端を発したと言われている。

そんなソーカルの手法を、また違った対象に援用する学者が現れた。

学者の名はピーター・ボゴシアン。挑戦した分野はジェンダー学を始めとする社会科学だ。

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