日本の女性はなぜ「働かない」のか
「女性の社会進出は着実なペースで実現しつつある」
そんなイメージを抱いている方が恐らくほとんどだろう。
確かに、テレビや新聞等のマスメディアでは連日「女性活躍」のイメージが喧伝されている。男女共働きの時代に備えよと政治家から行政から大企業までが声を揃え、ジェンダー平等の重要性が事あるごとに論じられ、女性管理職や女性政治家がスポットライトを浴びる機会もかつてないほどに増加している。こうした光景を日々眺めていれば、「女性の社会進出はどんどん実現している」と考えるのはごく自然なことだ。
しかし「女性活躍」の煌びやかなイメージとは裏腹に、現実の「女性の社会進出」はこの数十年間ほとんど進行していない。イメージではなくデータを見ると「不都合な真実」が次々と浮かび上がってくる。
まずは「共働き世帯」についてのデータを見てみよう。驚かれる方も多いだろうが、この40年で「妻がフルタイムの共働き世帯」は一向に増加していない。
増えたのはいわゆる「パート主婦」のみであり、週35時間未満の短時間労働を行う兼業主婦のみが増加している。メディアで礼賛される「フルタイムでキャリアを築きながら育児にも従事する」というタイプの女性は1985年(!)から一向に数を増やしていないのだ。
もちろん「働く女性」をサポートする仕組みは40年前とは比べ物にならないほど整っている。1985年の段階では労働者に育休の権利を保障する「育児介護休業法」すら存在しなかったし、子供を預ける保育所の数も今とは比べものにならないほど少なかった。「男性が家事・育児をサポートする」という考えも全く根付いておらず、女性への就業差別も歴然として存在していた。そもそも女性がフルタイムでキャリアを築くなどよほどの「変わりもの」として扱われた時代である。そんな40年前と現代で「フルタイムの共働き主婦」の数は全く変わっていないのだ。
実を言うと、そもそも兼業主婦に限らず女性のフルタイム労働者そのものが全く増加していない。増加していないどころかむしろ減少してすらいる。総務省の「労働力調査」によれば、2006年の段階で女性のフルタイム労働は1542万人存在した。しかし2021年にはこの数は1335万人にまで減少しており、割合としても2006年の59.3%から2021年の48.7%まで減少している。
上グラフを見ればわかる通り、女性労働の現状は「フルタイムからパートタイムへの回帰」が生じていると言えるだろう。「女性の社会進出」どころの話ではなく、「女性の時短労働者化」が進行しているのが現実なのだ。
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なぜこのような事態が生じているのだろう。今時のマスメディアなら「今なお残るジェンダーギャップが女性の活躍を妨げている」とでも評するかもしれない。
しかしデータはそれを否定する。女性非正規雇用者のうち、正規雇用を望む割合はわずか7.9%しか存在していない。望まぬ非正規雇用を強いられている「不本意非正規雇用労働者」の割合は極めて低く、むしろ全年代・全配偶関係で不本意率は男性が女性を上回っている。つまり女性非正規労働者は「自ら望んで」非正規の短時間労働に従事しているわけだ。
ちなみに平成29年度「就業構造基本調査」によると、女性非正規雇用者の31.7%が「収入を一定の金額に抑えるために就業時間を調整している」と答えている。いわゆる配偶者控除の枠内に収めるための意図的な就業抑制だが、これらの調査結果を鑑みても「ジェンダーギャップが女性の社会進出を妨げている」という結論は導けないだろう。女性は自らの意志でフルタイム労働から退出しているのだ。
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改めて、なにゆえこのような事態が進行しているのだろう。この数十年ほど「女性の社会進出」を肯定する声は一貫して高まり続けており、多くの意識調査でもその傾向は裏付けられている。
上グラフを見てもわかるように、「女性は職業を持たない方がよい」と答える人間はもはや絶滅危惧種だ。圧倒的大多数が女性が仕事を持つことを肯定しており、「子供ができた後もずっと仕事をつづけた方がいい」と答える層が今や男女共に過半数を占めている。
口では「職業を持つことの重要さ」を主張する現代女性たち。しかし一方でどれだけ就業環境が改善されてもフルタイム就業率は上昇せず減少すらしているこの矛盾はどこから来るのだろう。意外なところにその答えはある。
なぜ現代の日本女性は働かないのか。もちろん理由は「育児負担」でも「女性蔑視」でも「男性中心社会」でもない。
女性が働かない理由、それは
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