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詩/おとなりの家のひと


お互いに
触れず触(さわ)らず
会釈のような関係の
おとなりの家のひと

無愛想ではないが
何か言われたわけでもないが

何処か
よそ者は早く出て行きな
という気配をいつも感じている

ぼくん家の玄関の前には
お気に入りのベンチがあって

ぼくは毎朝そこに座って
煙草の煙を揺らしている

ぼくん家とおとなりの家の間は
おかかと名付けた野良猫の通り道

ぼくが煙を揺らしていると
度々おかかがやってくる

日曜日の朝だというのに
容赦のない
おかかのかまってくれオーラと
蝉たちのオーケストラ

ぱたっぱたっと
おとなりの家のひとが
洗濯物を干している

白い煙の行く先につられて
ぼくが空を眺めている間に

おかかは
おとなりの家のひとのところへ
行ったみたいだ

無愛想ではないが
何か言われたわけではないが

よそ者は早く出て行きな
という気配を感じる
おとなりの家のひとのところだ

うちのせいで
野良猫が寄り付いただなんて
誤解ではないが誤解だ

尚も鳴り響く
蝉たちのオーケストラに
ざわつくぼくの気持ちが増して行く

ぼくは
おかかとおとなりの家のひと
との結末を遮るように
玄関の扉を開けた

尚も ぱたっ ぱたっと
洗濯物を干している音に混じって
微かに「おはよ」と聴こえた

蝉たちのオーケストラと
思い過ごしの煙が空に溶けて

ぼくは

安堵の笑みで
玄関の扉を閉めた

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