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映画『17歳の瞳に映る世界』米・少女を取り巻く「無自覚な性暴力」と「中絶論争」に切り込んだロードムービー

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7月16日(金)に公開される『#17歳の瞳に映る世界』は17歳で妊娠してしまったオータムが、いとこのスカイラーと一緒に地元ペンシルベニアから、保護者の許可なしに中絶できるニューヨークへ、長距離バスで向かうロードムービーだ。ざらざらとしたフィルムの質感、少ないセリフ、オータムを演じたシドニー・フラニガンとスカイラーを演じたタリア・ライダーの繊細な演技、綿密な取材をもとに描かれた中絶クリニックの様子……などをドキュメンタリーのようなタッチで、「少女たちに対する無自覚な性暴力」と「保守に走るアメリカのリプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に切り込んでいる。本当に素晴らしいネオリアリズム映画に仕上がっているので、男性にも女性にも観てほしい。

(c)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.

■日常に溶け込んでいる「少女たちへの無自覚な性暴力」


実はペンシルベニアからニューヨークへはバスでたったの2、3時間ほど。オータムとスカイラーは日帰り旅行するつもりだったが、事情が変わり、2泊3日の旅になってしまう。映画はスローペースで進むが、地元、バス、ニューヨークで少女たちが出会う男性たちに潜む、無意識・意識的な性的欲望やアジェンダが露わになっていく。

少女たちが日常で受ける性暴力――。この映画を観た女性の誰もが、彼女たちの経験に自分の過去を重ねてしまうだろう。この映画を観るまで、それらのいくつかは性暴力だという自覚もなかったかもしれない。それほどまでに、少女たちへの性暴力は私たちの日常に溶け込んでいるという事実、そして女性として私たちがあまりにも慣れてしまっている事実に、筆者は愕然としてしまった。

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■原題『Never Rarely Sometimes Always』に込められた思い





『17歳の瞳に映る世界』の原題は『Never Rarely Sometimes Always』という。これは主人公の女の子がNYにある中絶クリニックでカウンセラーに聞かれる質問に対する4択の回答である。

Never 決してXXない
Rarely 滅多にXXない
Sometimes 時々XXだ
Always いつもXXだ

多くのクリニックでは、性にまつわる質問に答えやすいように回答を4択にしている。特に性暴力の被害者にとっては、自分が受けた暴力を詳しく説明することは精神的な苦痛を伴う。無理やり語らせることによって、被害者に二次被害を起こしてしまうこともあるからだ。

本作でオータムがカウンセラーの質問に4択で回答するシーンこそが、監督のメッセージだと思う。ネタバレになるので詳細は割愛するが、4択からひとつ選ぶだけで、彼女の過去が痛ましいほどに暴露されていくのだ。シドニー・フラニガンの演技と監督の演出が見事に発揮された名シーンである。

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■「性と生殖に関する健康と権利」が女性自身の手から離れている世界的な現状





本作の監督・脚本を務めたのはブルックリン生まれのエリザ・ヒットマン。彼女は、2012年にアイルランドで中絶が違法だったために死亡した女性の記事を読み、本作の制作に踏み切ったという。

だが、これはアイルランドだけの問題ではない。アメリカでは2019年にレイプでも中絶を禁止するというこれまでにない厳しい中絶法が成立し、中絶クリニックを減らそうという動きがある。フランスの国会では中絶法を制限する議論が展開されているし、日本では未成年者が中絶を受けるにはパートナーの男性の同意書が必要だ。

ヒットマン監督は、女性に対する「無自覚な性暴力」とともに、「性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」が女性自身の手から離れてしまっている現状に問題提起しているのではないだろうか。

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■米映画サイトから、エリザ・ヒットマン監督インタビュー





その証拠に、エリザ・ヒットマン監督のインタビューでこんなものがあった。米映画・TVサイト「The Playlist」から抜粋、意訳しよう。

―少女たちの人生の障害として、男性からの絶え間ない侵害があります。なぜ、それを描こうとしたのですか?

ヒットマン監督 : 一般のヒーロー物語では主役と悪役が存在しますが、この映画ではオータムを妊娠させた男性を追求して悪役を作りたくはありませんでした。この映画は、オータムが合法的に中絶手術を受けるための道、そして、男性の注目を上手くかわしていきながら、男性による注目や侵害に対して鈍感にならないといけない、若い女性のたどる道を描いています。彼女たちが常に感じている緊張感を映し出すことによって、男性の観客には彼女たちの視点で、男性の性的な侵害がどのようなものかをもっと深く理解してほしかったのです。

―スカイラーがオータムに、「男だったらよいのに、と思ったことはないの?」言ったセリフがありましたね。

ヒットマン監督 : この映画は、女性が“自分の体に対して力を持っていない”という事実と、基本的に“男性が作った目に見えない障害に直面している”ということ、そして、女性の自立性、羨望と力について描いています。また、“女性が受ける生殖の医療を、女性ではなく男性が決めている事実”にも焦点を当てたかったのです。

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アメリカの物語だが、実に普遍的な女性の問題を描いた作品だ。

日本でも、国会議員の暴言が非難された。「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」という、立憲民主党の本多平直衆院議員のこの言葉は、“義務教育中の14歳を性的対象化”し、“子どもの人権を侵害する”性暴力とも言えるだろう。本多議員にこそ、この映画を観てもらい、男性から受ける日常的な性的な視線に少女たちがどれほど恐怖を感じているのか知ってほしい。

この映画は少女たちが生きる世界の鏡なのである。

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■「17歳の瞳に映る世界」あらすじと映画祭での評価


愛想がなく、友達も少ない17歳のオータム。予期せぬ妊娠をしたことで、いとこのスカイラーと共にペンシルベニアからニューヨークへ向かう。その旅の中で、彼女たちが常に向き合っている世界が浮き彫りになってゆく。女性であることで感じつづける痛み、女性であることを利用して生きていく機知、弱音を吐かない強がり、ただ寄り添うやさしさ、多くを語らずとも感じられる繋がり......。少女ふたりの数日間を描いたロードムービーというミニマムな作りながら、どの国にも通じる、思春期の感情と、普遍的な問題をあぶり出し、ベルリン国際映画祭銀熊賞、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を獲得するなど世界中の映画賞を席巻! ロッテン・トマトでも99%(2021/4/22時点)の超高評価を得ている。大きな出来事が起きなくても、夢中で彼女たちの行方を見守る......現代を生きる我々の心に刺さる、物語が誕生した。(プレス資料引用)

(c)2020 FRIENDS IN TROUBLE LLC / FOCUS FEATURES LLC
ビジュアルクレジット
(c)2020 FOCUS FEATURES LLC


【参考】

プレス資料

Director Eliza Hittman On The Intricate Feminism Of ‘Never Rarely Sometimes Always’ [Interview] – The Playlist


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