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「意図的に距離を置く」v.s.「とことんまで寄り添う」セックスを救う2つの真逆説

エステル・ペレル博士 v.s. ジョン・ゴットマン博士

性科学の世界で、いま、リレーションシップやセックスのサイコセラピストとして引っ張りだこな2人が、ベルギー人のエステル・ペレル博士とアメリカ人のジョン・ゴットマン博士だ。興味深いことに、彼らはカップルの情熱を絶やさず、良好なセックス関係を築くために真逆の説を展開している。

今回は、それぞれの説を紹介しよう。

■1:エステル・ペレル博士の説「意図的に距離を置く」



エステル・ペレル博士は「Mating Captivity」で現代のリレーションシップに存在する矛盾を説明する。それは、「慣れvs新しさ」、「安定vsミステリー」のそれぞれの価値観に生じる相反する欲求のことだ。

私達は、安心・安全・安定を求める「愛」をもちたいが、同時に、冒険・リスク・新しさを求める「情熱」も欲している。ペレル博士が説くには、「愛は持つこと」。そして、「欲望は欲すること」であり、私達は“持っていないもの”しか欲することができない。だから長期的な愛と情熱と欲望は両立しないというのだ。

愛に慣れてしまい、情熱や性的欲望が消えてしまうことはセックスレスにもつながる。その解決法として、カップルは全てを分かち合うのではなく、「ほんの少し物足りない」関係を続けて、「自分ひとりでいても幸せでいられる」自立性を養うことだという。意図的に距離を置くことによって、カップルの関係にあえて“不安定さや不確実性”を生み出す。お互いが“少し”ミステリアスな存在でいることよって、トキメキや性的欲求を維持することができるというのだ。

ペレル博士のこの説は、行動分析学では「変動強化」と呼ばれるものだ。別名、ギャンブル効果とも言われる「変動強化」は、毎回同じ行動に対して同じご褒美をもらうと、刺激がなくなってだんだんモチベーションが下がることを指す。ある実験では、一定の行動に対して必ず決まったご褒美をもらうラットよりも、思いがけないご褒美をもらったラットの脳に、快楽に関係するホルモン、ドーパミンが放出されるという結果が出た。(※)

カップルにあてはめていうと、パートナーを自分の手中に収めた、パートナーは絶対に自分の元を離れない、という確信を持ってしまうと、性的欲望が弱くなってしまう。これを防ぐには、パートナーを少しだけ不安にさせた上で、予測不可能な愛を与えてドーパミンを誘発し、パートナーをドーパミン中毒にさせることである。少々乱暴な物言いではあるが。

★FRaUでセックスレスを解消した女性達を取材

実際に筆者が取材をした、セックスレスを解消した女性3人のなかにも、「夫を心配させてセックスを取り戻した」人が2人いた。ひとりは、夫に“全て”を期待せず、夫以外の交友関係や“自分自身の世界”をもつことで夫を違った目で見られるようになった。もうひとりは、夫に自分の生活の全てをさらけ出さず、夫からの連絡をときどき無視するなどして、夫から距離を置いた。その結果、夫は求めてくるようになったという。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70587


けれども、これに真逆の説を唱えるのがジョン・ゴットマン博士だ。

■2: ジョン・ゴットマン博士の説「とことんまで寄り添う」



著書「The Science of Trust」のなかでゴットマン博士は、カップルの情熱が消える原因は距離感やミステリーが欠けているのではなく、親密さが十分でないことだと唱える。博士は45歳以上の100組のカップルーーセックスが良好なカップルとセックスに問題があるカップルを50組ずつーーを研究した。すると、良好なセックス関係を築いていたるカップルは、「お互いの欲求を知り尽くす」ことを実践していた。ゴットマン博士は、一緒にいる時間を楽しむこと、持ち続けること、味わうこと、お互いを許すことで性的欲求や情熱が維持されるという。性的欲求があろうがなかろうが、カップル円満のために、日常のなかでセックスを優先することが大切だというのだ。それを続けていくと親密さが増し、情熱や性的欲望が強くなる。


ペレル博士のアプローチはパートナーを渇望させる熱情を呼び起こさせ、ゴットマン博士のアプローチはお互いをとことんまで知り尽くす愛情を育む。

セックスに対してオープンで率直な関係を築いているカップルならゴットマン博士の方法は素晴らしいと思うが、協力的なパートナーがいない限り、このやり方は通用しない。

ペレル博士の「パートナーからある程度の距離を置く」は、パートナーが離れていってしまわないかという不安や孤独、自分の感情との闘いになる。だが、“自分の境界線を守り、アイデンティティ”を保つ上で、人として基本的に必要なことのように思う。カップルの関係性は変わりゆくからこそ、私達はまず自分軸を作り、パートナーとも妥協してはいけない。そんな風に筆者は受け取ったが、皆さんはどう思うだろうか?(もちろん、日常の子細なことは妥協しなければいけないが)

ちなみに、先日取材したカップルは、仲が険悪なときに別居してお互いを恋しく思えるようになり、再び同居し始めてとことんまで話し合い、定期的にセックスをするように努力して、2人で幸せになろうと決めた。無意識的にペレル博士とゴットマン博士の両方の方法を実践していたとは驚きだ。

セックスを含めて人間の抱える問題には、ひとつの正解がないところが難しい。

また別の機会に、ペレル博士とゴットマン博士のそれぞれの研究を深堀りしたいと思う。

【参考】
※The Lure of the Unpredictable Lover – Psychology Today

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