見出し画像

感想&雑感:『ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機』濱口 桂一郎 (著)

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで。

 さて、今年の読書感想文第1弾です。日本における労働法政策の代表的なお1人でhamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)という個人ブログもある濱口桂一郎先生の著書『ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機』です。

1.感想1.ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用の基本

 失われたうん十年を経験した日本に浮いたり沈んだりを繰り返す論調にジョブ型雇用というものがあります。言葉それ自体はメンバーシップ型雇用と同じく濱口先生が作った言葉ですが、学術的概念として意味それ自体は昔から存在しています。しかし、近年ビジネスの文脈で用いられるジョブ型雇用という概念は本来の意味ではなく、経営者側にとって利となる意味で使われています。

 本書の冒頭ではそれが今一度事細やかに記載されていて、本来の意味を学ぶことができます。例えば、ジョブ型雇用を考える上で登場するワードに職務記述書(ジョブディスクリプション)があります。ビジネス誌やビジネス誌系のサイト,経済新聞等では当該ポストに必要なスキルが記載されていると書かれていることが多いようですが、本来は当該ポストが担うタスク(仕事内容)が記されています。またジョブ型の基本は当該ポストが担うタスクをこなせる人をはめ込むので、その人がタスクをきちんとこなしているかどうかをチェックするため成果主義は馴染まないし、ジョブ型を取り入れている国でも合理的な理由が無ければ解雇はできないと解雇規制を取り入れている国も少なからずあるので、当該ポストのタスクをこなせなかったら即クビ(解雇)というわけではありません。

 一方で、濱口先生は日本のこれまでの労働史をふまえてメンバーシップ型雇用が時代と共に揺れ動きある背景を冒頭で述べています。いわゆる高度成長期は若者は重宝され女性は割を食っていましたが、高度経済成長期の終焉と共に正社員雇用の少数精鋭化傾向から氷河期世代と正規・非正規の格差、女性の社会進出の流れの中でメンバーシップ型雇用の特徴として挙がる職務内容や労働時間,就業場所の柔軟さは子育てや家族の介護という場面において障壁となる事があるということを指摘されていました。

 この冒頭だけでも、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の基本を学び事ができます。

2.感想2.多様な比較ができるメンバーシップ型とジョブ型

 本書の第1章~が本論に入るのですが、1つ1つ丁寧かつビジネスの文脈において語られているメンバーシップ型とジョブ型の何に引っかかりがあるのかが解説されています。私自身も本書を読んできちっと理解できているかは怪しいですが、それでも読む必要がある一冊だと思います。

 例えば就活で内定という言葉がありますが、これは日本の労働法においては民法のように労働力と賃金の交換契約ではなくて、当該組織のメンバーとして労働者を迎え入れるという理由から、内定は労働契約の予約では無くて契約(労働契約)そのものであるという論理立てをされます。一方で、解雇についてはジョブが無くなれば解雇というのはジョブ型においては正当な理由ですが、それができるのは解雇自由なアメリカぐらいでヨーロッパやアジア諸国においては解雇には正当な理由が必要となりますが、その際に用いられるのが経営上の理由による整理解雇です。

 また人事査定を取ってみても、ジョブ型の前提は当該ポストが担うタスクをできる人をあてがってそれに対して対価(給与)を支払うため、よほどのことが無い限りは査定はしません。しかし、メンバーシップ型においては末端の社員さんまで査定をします。上位等級の社員と違って査定が難しい末端の社員さんを査定する上で登場するのが情意すなわちやる気です。そのため、メンバーシップ型に能力主義は馴染みません。

 この場ではとりあえず入口・出口と査定について書いてみましたが、ジョブ型とメンバーシップ型には多くの切り口があります。

3.感想3.同一労働同一賃金

 本書ではジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用を切り口に色んな個別論点も章立てされているのですが、その中で興味深かった1つが同一労働同一賃金です。

 ジョブ型雇用の基本である当該ポストが担うタスクに値付け(賃金を支給する)するというのは同一労働同一賃金に通じていて、この同一労働同一賃金の根底にあるのはフェミニストサイドから男性女性の性差で賃金が不当に扱われないようにという申し立てから、同一の労働価値には同一の賃金が支払われるべきという事から世界的にはスタートしていて、これが世界共通での同一労働同一賃金の概念であります。つまり、日本における正規雇用・非正規雇用の格差を同一労働同一賃金の文脈で語ることは間違っていて、日本における正規雇用・非正規雇用の格差対策はこれまで賃金の決定に資する要素はいじらないけど、過度な格差は正していこうぜ!という均等・均衡処遇という方法で、それが形となった1つが2007年9月の改正パートタイム労働法です。

 しかし、2016年に当時の安倍首相が「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」宣言がなされました。その中枢の頭脳として活躍されたのが労働法学の大家である水町勇一郎先生です。

 水町理論によると、ヨーロッパでも労働の質や勤続年数,キャリアコースの違いなどが同一労働同一賃金の例外として考慮に入れられていて、同一労働に対して常に同一賃金を支払う事が義務付けられていないから日本にも同一労働同一賃金が導入できるというとのことです。しかし、賃金がタスクに付くのか人に付くのかという違いやヨーロッパでは職務ベースで賃金の基本が決まりそれに勤続年数やキャリアコースが加味されるけれど、日本では職務内容は一切関係なく勤続年数とキャリアコースが賃金のベースとなりそこに意欲や能力が加味されるといった違いを無視してごっちゃになっているのが水町理論だと濱口先生は指摘されています。この流れは結果として、2018年6月に成立した働き方改革関連法でパート・有期法と労働者派遣法にこてまでの規定を若干修正・付加された形の均等・処遇規定が設けられたり、同一労働同一賃金のガイドラインにおいて「我が国が目指す同一労働同一賃金」を「同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消」等という目的として定義され、どっちつかずの訳の分からないとりあえずの結論となりました。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?