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雑感&感想:『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』中原 淳 , 小林 祐児 , パーソル総合研究所 (著)

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで。

 今回は、立教大学の中原先生と転職サイト「doda」でお馴染みのパーソル総合研究所の共著である『転職学』についての雑感&感想を書いてみたいと思います。

1.転職を前提とした時代だけど...

 本書内における前提として据えていたのが、「転職する」「転職しない」つまり、転職というチケットを使うか否かを意識しながら生きていく時代と述べています。しかしデータ上においては長期雇用のトレンドからの変化は転職が叫ばれる昨今においてもなく、転職コールと長期雇用の板挟みに今の日本はあると本書内で指摘されています。

 転職に興味があると言っても、学校で教えてくれない,他者の「経験談」に頼れない,後戻りできないといった理由から、転職というものが学びにくい(私の感覚で言うと分からない)状況があります。その悩みに対して、著者たちは自身のキャリアを運任せの「マッチング思考」で捉えるのではなく、自分が場に最適に適応する覚悟を持つ「ラーニング思考」を提唱していて、本書もそれをベースにして展開されています。

2.離職,転職を考える方程式

 本書の中で目から鱗だったのが、離職,転職を判断する際のこの方程式です。

D×E>R

 Dはいまの会社への不満,Eが転職力(現在の会社とは違う会社や仕事にうつることのできる可能性),Rが転職への抵抗感を指します。つまり、現職への不満と現在の会社とは違う会社や仕事にうつることができる可能性がワッサーと高くてそれを解決する手段として転職を選択することに抵抗感が低ければ人は離職や転職の選択をする傾向にある一方、自身の現在地を確認する方法として提唱されていますが、これを見た時ここまで簡単に言語化できるんだということに驚きました。

 例えばD(いまの会社への不満)については、データでも前職への不満を伴う転職が約8割を占めているとの事ですが、不満の中には「解決できる不満」と「解決できない不満」の2種類に類別され、後者にぶつかった時に相談等解決に向けた行動をしたとしても無意味と学び(心理学でいう「学習性無力感)、これが離職意思を高めていくトリガーになっていくと述べています。そして、これが確固たるものなっていく過程を示したモデルとしてイギリスの心理学者ジェームズ・リーズンが提唱した「スイスチーズ・モデル」を用いて述べています。穴の開いたチーズ(スイスチーズ)が不満の要素を表していて、例えばキャリアの初期の段階から「業務が忙しい」,「上司と仲が今一つ」,「同僚からのフォローがない」といった複数の要素が串刺しのようになり、離職意思を決断要素に行き着くといった形をモデル化したもので多くは心身の健康の悪化が離職意思を決断する要素になるそうです。

 またE(転職力(現在の会社とは違う会社や仕事にうつることのできる可能性))については、単にその職種の経験があるとかスキルがあるといった事だけにフォーカスを当てるのではなく自己をどれだけ深く認識できるかという部分も大事で、その手法として「内面にある自分」と「他者から見た自分」を重ね合わせてその違いを認識する行為である「セルフアウェアネス行動」を述べていて、「セルフアウェアネス行動」を通じて下記の4タイプが見えてくるそうです(下図,筆者作成)。中でも高認識タイプは選考通過率・転職後の満足度共に高く、情報収集・選考対策のアクションも活発で内省を繰り返していく傾向にあるそうです。

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3.おわりに

 本書ではその他に転職の歴史や昨今話題となっている「地方転職」,「ベンチャー転職」,「独立開業」,「副業,兼業」をテーマにした青い鳥症候群の実情と考え方、新しい組織に馴染むための科学的手法やミドル層の転職についての考え方や前の会社との付き合い方と言ったように、転職をキーワードにした学術的アプローチやパーソル研究所との共著故の膨大なデータを駆使したアプローチに長けた面白い一冊である一方で、これらを万遍なく理解するのはなかなか難しいです。

 だけど、大枠でも理解できれば転職エージェントが発信している情報やSNS等で見る真実と嘘が入り混じった情報に踊らされる可能性が低くなる可能性はある有効な一冊だと思います。

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