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【No.3 陸上短距離走選手の筋量と疾走中の力学的データにはどういう関係がある?】

<背景・目的> 
陸上短距離走選手の筋量を調べた先行研究では,股関節まわりや大腿部の筋量と100-mタイムとの関係が検討されてきた。しかし,それらの筋量と疾走中の力学的データとの関連については明らかでない.この研究では,大腿部の筋と大腰筋を対象として短距離走選手と非鍛錬者で比較し,短距離走選手の筋量と疾走中の股関節における力学的データとの関係について検討した.

<方法> 
・対象者 
男性陸上競技短距離走選手15名(100-m自己ベスト記録の平均値:11.09 ± 0.27秒,10.63~11.57秒)
男性非鍛錬者12名(筋力トレーニングやスポーツ活動に2年以上参加していない人)

・測定および分析 
1.5 TのMRI装置を用いて,大腿・体幹の横断像を撮影.大腿四頭筋各筋(大腿直筋,外側広筋,内側広筋,中間広筋),ハムストリングス各筋(大腿二頭筋長頭・短頭,半腱様筋,半膜様筋),内転筋群(大内転筋,長内転筋,短内転筋,恥骨筋),縫工筋大腿筋膜張筋薄筋大腰筋の体積を測定.体格の影響を考慮して,体重で標準化.
短距離走選手には最大努力で50 m走を行ってもらい,35 m地点での地面反力と身体動作をモーションキャプチャー装置で測定.重心の速度股関節のモーメント・角力積(力のモーメントと時間の積)を算出.

<結果> 
大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋・大腰筋・薄筋・大腿二頭筋長頭・半腱様筋・半膜様筋・内転筋群の体積(体重当たり)は,短距離走選手が非鍛錬者より有意に大きかった⇒群間差があったのは主に二関節筋
✓外側広筋・内側広筋・中間広筋・大腿二頭筋短頭の体積(体重当たり)には,両群間の有意な差が認められなかった⇒群間差がなかったのは単関節筋
大腿直筋の体積(体重当たり)とスイング脚における股関節屈曲のピークモーメントとの間に有意な正の相関関係(大腿直筋が大きいほど股関節屈曲のモーメントが大きい)が認められた(r = 0.66).
股関節屈曲の角力積と重心の速度との間に有意な正の相関関係(股関節屈曲の角力積が大きいほど速度が高い)が認められた(r = 0.66).
大腿直筋の体積(体重当たり)と重心の速度との間に有意な正の相関関係(大腿直筋が大きいほど速度が高い)が認められた(r = 0.69).

<考察> 
股関節屈曲のモーメント・角力積が大きければ,大腿部の角運動量が大きくなり,高いステップ頻度(ピッチ)を達成するために必要な素早いスイング動作が可能となる.短距離走選手の大きな大腿直筋は,スイング期において股関節屈曲の大きなモーメント・角力積を発揮し,高い走速度に貢献しているのではないか,と著者は考察.疾走速度を高めるために,大腿直筋を鍛える筋力トレーニングを著者は推奨している.

<結論>
大腿直筋の筋量が多い短距離走選手ほど,疾走中に股関節屈曲のピークモーメントが大きく,走速度が速い

<文献情報> 
Ema et al. Thigh and Psoas Major Muscularity and Its Relation to Running Mechanics in Sprinters
Med Sci Sports Exerc. 2018
https://journals.lww.com/acsm-msse/Fulltext/2018/10000/Thigh_and_Psoas_Major_Muscularity_and_Its_Relation.13.aspx