遺していくあなたへ

結婚準備として遺書を書いた。物騒な話ではない。

我が家は同棲時代から、お金とありとあらゆる契約関係を私が管理している。夫になる人はそのあたりがめっぽう弱かった。私は強い方だし、ケチだし、管理は苦ではない。

でも任せっきりにされると不安になる。夫になる人は自分の通帳の在処も残高も、どんな保険に入っているかも、引き落とし日もなんっっっにも知らない。

私にもしものことがあったらと不安になった。
相続の手続きはできるのか。保険金は受け取れるのか。そもそも葬儀やら除籍やらは滞りなくできるのか。

入籍前と後で手続きが変わるだろうけど、入籍前には死なないことにして、配偶者としての立場で「私が死んだらすることリスト」を作った。
その導入として遺書を書いたのだ。

でも当時は言いたいことがまとまらず、何度も何度も書き直したが結局完成には至らなかった。

最近このことを知人に話したところ、興味を持ってもらえたので、この場を借りて遺書を書こうと思う。

遺書って言うか、気持ちを伝えたいだけのただの手紙なんだけど。
…人はそれを遺書と呼ぶのか？

無事入籍もして子どもも生まれて、伝えたいこともリニューアルされたし。ちょうどいいタイミングかも。

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愛する旦那様

今までありがとう。

あなたと出会ってから人生が好転しました。いや、ほんとに。悪縁が切れたり、苦しい環境から抜け出せたり。
あなたと付き合い始めたら、毎日笑ってばっかりで楽しくなりました。

結婚生活はどうやった？
私は2人暮らしも、子どもができてからも、犬をお迎えしてからも、2DKの賃貸暮らしも、頑張って建てた今の家での生活も全部全部楽しかったよ。

片付けが苦手でごめんね。めんどくさがりでごめんね。でも、大らかなあなたとだから、無理にならない範囲で家事も育児も続けられました。不満もあったかもしれないけど、言わないでくれてありがとう。
まぁね。言うと10倍になって返ってくるし、最悪やらなくなるもんね。私のことをよく理解してくれてて助かります。

私のことは忘れてもいいです。あなたの人生を生きてほしい。

でも、本音を言うと寂しい。
だから1年間だけは私のことを想ってくれない？
次の命日を過ぎたら、新しい出会いを探してもいいよ。
でもでもやっぱり、何年後も何十年後も、命日だけは私のものに戻ってほしいな。一日中なんて言わないから。1時間でも30分でもいいから、私のことを考えてほしい。

それ以外は今の通り、面白おかしく元気にテキトーに生きて行って。
再婚もしていいよ。
ただ、子どもとよく話し合ってね。息子はストレスが溜まると体に出るから、溜め込まないようによく聞いてあげて。娘は相手が大人であっても気持ちを汲んでくれる子だから、もしかしたら「いいよ」って言うかもしれないけど鵜呑みにしないでね。

本当はね、いなくなった私があなたの行動を制限しちゃいけないのはわかってるんだ。あなたの心は完全に自由であるべきで、その選択を全面的に応援しなきゃいけないって。子どもさえ大切にしてもらえたら、それ以上のことには口を出したらいけないって。頭ではわかってる。

私に囚われないでほしい。
でもできるだけ想っていてほしい。
この矛盾が私の素直な気持ち。

私の人生を楽しくしてくれて、未来を照らしてくれて、この世でただ一人私が選んで、私を選んでくれた人だから、離れるのが寂しくてわがまま言っちゃうんだ。

何が言いたいかわからんかな？
あなたが大切で、離れたくないってことだよ。

じゃあね！バイバイ！

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※特に命に関わるような病気になっていたりはしません。ただ、人なんていつどこで死ぬかわからないものだなっていうことを常々考えているだけです。