まいご3

母は私を強制的にアパートから連れ出し、実家の近くにあるメンタルクリニックへ向かった。母も私も一言も発しなかった。私は特に言いたいこともなかったし、頭の中がぼんやりしていて、母が今何を考えているのかを想像することさえ億劫でただ座っていた。クリニックに着き、薄い顔立ちの中年男性が私にいくつか質問をしながら、カルテに何かを書き込んでいる。私は質問された事をうまく咀嚼できず、何度か的外れな答えを出していたようだった。そのたびに、母が身を固くするのが分かった。私は、こんな質問はどうでも良いから早く自分のベッドに帰りたいのにと苛立ち、とにかく体が疲れていて重たくて、早く横になりたかった。でも半年ほど前から、どんなに疲れていても、眠るという行為が難しいものになり、ベッドに入ることすら止めてしまった。休息をとることが困難になる代わりに、日中は耐え難い睡魔に襲われ、仕事への集中力など持てるはずもなかった。このような状況に至るまでに、私の体はきちんと私にサインを送っていた。強烈な倦怠感だけではなく、手が震え、瞼が四六時中痙攣し、お腹を下すことも増えていた。自分の異変に気づいていたにも関わらず、それをことごとく無視した。気合が足りないからだ、まだ仕事が終わっていない、やらなきゃ、など自分に鞭を打ち続け、体も心も倒れそうになるたびに奮い立たせてきた。でも本当は、ただ自分の心に忠実になれるならば、もう無理だ、休みたい、もう何もかもやめたいとずっと思っていた。

劣化したゴムは、耐久性が低く、少しでも無理をして引き伸ばせばたちまち切れてしまう。でも私はまだ25歳で、入社3年目で、やっと仕事にも慣れてきて、任せてもらう業務の質も量も増してきたというのに、こんなところで。そんな訳はない、私はこれぐらいで音をあげるほど、キャパシティーが狭い人間ではないとプレッシャーをかけた。連日深夜まで残業しなければ、業務が終わらない。上司の指示は日付が変わると180度変わっている。他の社員がいる前での罵倒。顧客からの無理な注文の嵐、終わりの見えない納期。私の能力が足りないせいももちろんあるが、まともな精神状態でいられる労働環境ではなかった。


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