飲み干す

プシュッと音がはじけた途端、ふわりとメロンソーダの香りが立ちのぼる。どんなに安価な缶チューハイだろうと、この瞬間には他に代えがたい価値がある。一口目はアルコール臭さが目立つが、飲み進めていくうちに気にならなくなる。

社会人になり、一ヵ月が過ぎようとしている。だが、右も左も分からぬまま、神経をすり減らすだけの日々を繰り返しているだけで、社会人になったという実感はまだない。早く役に立ちたい、何で自分はこんなにも出来ないんだろうと、焦り、いたたまれない気持ちでデスクに座っているが、何をすればいいかも分からない。大した仕事をしたわけではないくせに、毎日家に帰るとクタクタに疲れ切っている。適当に食事を済ませ、寝落ちそうになりながら風呂に入り、特に目的もなくスマホを触りながら眠りにつく、これが帰ってきてからの私のルーティンだ。

明日は休みで、今夜も特に用事はないからと、スーパーで買った缶チューハイを飲んでいる。その缶チューハイは、商品名の通りに、アルコール度数は高くなく、季節ごとに新しいフレーバーを出しており、女性にも人気だ。私は、特別に好んでいるわけではないが、なんとなく手に取りやすいため、いつもこれを選んでいる。五月の連休の際に、学生時代の同期たちと久々に飲み会をした。なじみのメンバーの全員が出席し、それぞれが仕事に苦戦していると笑い半分本気半分で愚痴をこぼしあった。自分と同じようなことで悩んでいるように見えるのに、みんなの話を聞けば聞くほど、自分ほど何もできない人ってそんなに居ないんだな、と自信がなくなっていった。無理矢理気持ちを上向かせて、その場は楽しんでいる体でやり過ごせたが、そんな風にふるまわねばならない自分への嫌悪感は見て見ぬ振りが出来なかった。

もちろん、みな口にしないだけでそれぞれ抱えている地獄がある。それを誰かにひけらかしたところで、逃れられるわけではない。どうにもならない事は、たくさんあって、結局いつかはどこかで向き合わねばならない。

それと向き合うだけの体力がないときに限って、その地獄はここぞとばかりに襲ってくる。どうにかやり過ごすため、私は今日も缶チューハイを飲み干した。


#ほろ酔い文学

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