事件 誕生日の前日
【本稿は、不謹慎だと誤解される可能性があるので、閲覧注意】
2017年7月、私の誕生日の前日の午後、訃報がはいりました。
関西の、某、悪友からの電話です。
とりあえず、ぐだぐた言わずに、ありのままの会話を再現しましょう。
♪ ピコピコ太郎 ピコ太郎……(電話の呼び出し音)
🤓「…もしも〜し」
🐷「おおきに、けんちゃん、おおきに」
🤓「おう、◯◯◯◯か? 久しぶりやないか、いったいどないしてん、宝くじでも当たったんか?」
🐷「なんでやねんな…そんな景気がええはなしやったら、わざわざけんちゃんに電話なんかするかいな、どうせこっちがおごらされるのがセキノヤマやもん」
🤓「当たり前やないか? そのかわり、わしが宝くじ当てたら、お前にもおごったるがな」
🐷「そうか、ほな楽しみにしとくわ」
🤓「ほんでなんやねん? その、不景気な話というのんは?」
🐷「それがなあ、実は、6月30日にな、※※※※さんが、亡くなりはったんやわ」
🤓「えっ、※※※※さん、わしより若いやろ?」
🐷「たぶん、けんちゃんのひとつかふたつ下のはずやわ」
🤓「たしか、何年か前に、△△あたりで、トンカツ一緒に食うたんが……それが、わしがおうた最後か……」
🐷「そうなるわなあ……あの時、けんちゃんに、たっかい、たっかい、天ぷら…料亭で食わせてもらう気やったのに、トンカツになってもて、なおかつその店、食券制で、結局、おごってもらわれへんかったんや」
🤓「結果論や結果論。 レシートこっちによこせ、ゆうたのに……まあ、前払いなら、レシートないわな」
🐷「本人も、そのこと、かなり根にもっとったと思うで」
🤓「アホぬかせ! それより、なんや、入院でもしてたんか?」
🐷「いや、寸前までピンピンしてたんや、ボク、いっしょに呑んだもん」
🤓「ほんなら、病気やのうて、事故か?」
🐷「いや、事故ともちがうねん」
🤓「すると何か、もしかしたら、なんか事件にでも巻きこまれたんか?」
🐷「まあ、事件やなあ……それが、巻きこんだんか、巻きこまれたんか、そのあたりも、ようわからへんねんねんやわ」
🤓「どないやねん? いったい、何があったんや」
🐷「それがな……女と、心中したんや」
🤓「えっ! …………」
🐷「どないしたん、けんちゃん?」
🤓「やりおったなあ……」
🐷「えらい感心してるやん?」
🤓「いやな…わしはまた、まだ若いのに、病気で死んだり、事故で死んだりしたんなら、かわいそうやなあ、と、心を痛めてたんやが、女と心中とは驚いた、いやあ、すごいなあ、自分で選んだ道なんや…なんや、不倫の果てか?」
🐷「不倫やないねん、もう相当まえに、昔の奥さんとは離婚してて、まあ、2、3年前から、女ができてな、ボクかて、その人には、何回もおうたことがあるんやけど、とにかくこれが、いろんな意味で変わった女の人でな、※※※※さん、いっつもその人に、えろうふりまわされてはったんやわ」
🤓「ほんで、どこで死んだんや? 山の中か? 車の中で排ガスか?」
🐷「それが、自宅やねん、2階に弟さんがいはってな、ギャァ…ゆうただならぬ声がして、階段駆け下りて部屋に入ったら、もう血の海やったらしいわ」
🤓「血の海って…首吊りとちゃうんか?」
🐷「※※※※さんは、首に、包丁刺したみたいやな、女の人は、お腹刺されたみたいやねん」
🤓「なんでそんなことをお前が知ってるねん?」
🐷「いや、ご遺体がな……首のとこに、何針も縫うたあとがあったんやわ、それに、えらい新聞にもデカデカとでたさかいになあ…」
🤓「すると何か? ※※※※さんが、カッとなって、女の腹を刺して、それで、えらいことしてもたゆうて、自分の首を刺して自殺したんか?」
🐷「そのあたりの順番が、ようわからへんねん」
🤓「それ、やっぱり、無理心中になるのかなあ……」
🐷「とにかくな、女の人が、なんせ変わった人やったさかいにな、ホンマに、謎やねん、警察かって、検死したけど、わからへん、ゆうてはんねん」
🤓「ほんで、葬式わい?」
🐷「そんなん、完全密葬で、身内だけでとっくに終わったがな、仏壇も、線香立ても、遺影すらないねんで、ボクはなんとか、顔だけは出させてもろうたけど……」
🤓「まあ……家族も、たまらんわなあ……」
🐷「弟さんがいはってな、ボクは弟さんとは面識がないねんけど、一緒に仕事してた仲間のひとりが、えらい弟さんと、仲がええんで、まあ、四十九日くらいは、なんかしたりたいなあと思うてな……けんちゃんも、知らん仲やなかったから、とりあえず、一報だけでもいれとこうと思ったんや」
🤓「そらまあ、ありがとうな、礼を言うわ。そやけど、仏壇もなしで、家族ほっといて、四十九日ゆうてもなあ……」
🐷「どないしょう? なんかけんちゃん、ええアイデアない? こんなときくらいしか、けんちゃんの値打ちないんやから」
🤓「やかましいわい! わしが思うにな、死んだ女の人は、ちょっと哀れやけど、これもまた、好いた男と一緒に死んだんやから、まあ、お互い様やし、そこまで男を怒らせた責任も、ないことはないから、まあ、横に置いといてやな。
※※※※さんなあ、そら、真相はわからんにせよ、やっぱり、死ぬぬはようないわな。でも、最後は自分が選んだ道や。よっぽど、気合いをいれて死のうと思わんと、自分の首に包丁なんか刺されへんよ、そら、※※※※さんにしかわからん、どうしようもない切羽詰まった思いがあって、仮に、先に※※※※さんが、女を刺したとしてもやな、すぐに自分の命で精算したわけや、家族はええ迷惑やけど、ワシらは、やっぱり、故人を、今までどおりに見て、死んだとはいえ、今までどおり付き合っていったらええんやないか」
🐷「ほなら、どないする?」
🤓「わしな、今月末に山口から上京するんや、それで、2日ぐらいしてから、まずは関西に戻るから、その帰り道ででも、とにかく、お前と会うことにするわ」
🐷「わかった。 それで、どうする?」
🤓「お前は、香典は届けたんか?」
🐷「うん、まあ形だけやけどな、通夜も葬式も表向きにはなかったけどな……」
🤓「ほんなら、わしも香典、なんぼか包むんで、今度お前におうた時に預けるさかいに、都合がええときに、弟さんにでも届けてくれ」
🐷「わかった。そんで、けんちゃんとおうてから、どないする?」
🤓「そんなもん、決まってるやないか? トンカツ食いにいく」
🐷「トンカツ?」
🤓「そうや、あの時におごりそこねたぶん、一個余分にトンカツ注文して、ワシとお前と、姿がみえへん※※※※さんと、3人で、食おうぜ。お前、あの時の店、覚えてるか?」
🐷「たぶん、わかる」
🤓「それがな、わしらができる、一番の供養や、そこで、3人でトンカツくいながら、わしが、※※※※さんに、軽い説教したる」
🐷「わかった。けんちゃんの意見も、一理あるわ。とりあえず、それでいこ」
🤓「とにかく、東京からの帰りに、必ず連絡いれるさかいに、駅まで迎えにこいよ」
🐷「わかった。ほな、それで」
🤓「よっしゃ、ほんなら切るぞ、今、パスタ茹でとるさかいにな……」
🐷「あっ、あっ……ちょっと待った、ちょっと」
🤓「なんや? まだあるんか?」
🐷「その、トンカツ代は、けんちゃんが全部払うんやろな?」
🤓「男がひとり死んだんや、そんな時に大の男が、細かいことをグダグダ言うな、細かいことを……」
🐷「いや、そこ、ものすご大事なとこやさかいに……けんちゃんが、あの時の礼を返すといわな、※※※※さん、わざわざ出てこえへんで」
🤓「わかってるがな、ワシを誰やと思うてるねん?」
🐷「けんちゃんやから、確かめてるんやがな」
🤓「食い終わってから、レシートわしにまわせ」
🐷「あの店は、前払いやっ、ちゅうねん!」
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