見出し画像

脚むず先駆者の20年⑧

もうこの部屋にお前たちの住むところなってないぞ。
いったいどこから来るんだよ。
もしかしてとんでもない増殖力でもあるのか?
一匹入ってきたら瞬時に増えるのか?

「見えない虫」が来てからわたしの部屋は猛スピードで清潔になってきた。さすがにこの部屋で殺虫剤はいらないだろう。
そしてこの部屋の中に虫の住む場所がないなら、外から来ているとみていい。
やつらの住処がこの部屋ではないことが分かれば次に進める。

わたしが次に目を付けたのはアパートの共用部だ。つまり入り口、階段、廊下。その状態は言葉を選ばずに言うなら「汚い」の一言だった。

大家さんはいい人だが、家賃はかなり安く、毎月の管理費は微々たるもの。とても管理にまで人手を割く事はできないようで、階段には埃が、普段目にしない場所には塵が一面に広がっていた。

そこでわたしが始めたのはこの共用部の大掃除である。

体中に虫を吸い付くのを覚悟して頭にタオルを巻いて始める。まずはほうきで掃きまくる。廊下の窓は全開に。一粒の埃が虫の住処になるかもという強迫観念もあり、徹底的に掃除する。

大家さんのお父さんがたまに屋上に行くために姿を見せるが、そのお父さんにも掃除する姿を見られる。管理が出来てないことを行動で示しているようで、何となく気まずい雰囲気になったが、それでもわたしには止められない理由がある。

それからも定期的にわたしは共用部の掃除に時間を割くようになった。

おかげでたまに会うお父さんも「いつもありがとうね」と感謝してくれるようになった。気まずい雰囲気も慣れてしまえばそんなものなのか。

見えない虫駆除生活は周りの人を巻き込んでいく。


⑨に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?