見出し画像

妄想的サタデー

この時期の空が好きだ。青は濃く、積雲は高く、そして映えている。旅客機が横切っている。ちょうどインスタグラムのストーリー用にiPhoneをかまえていたから、16:9の画角を対角線に滑空していった。人間とは忘れる生き物だとつくづく思う、羽田発着便の飛行ルートが変わった途端にやれ騒音問題だの、やいのやいの言っていた人たちはどこに消えてしまったのだろうか。今はiPhoneの画面越しに孤高に飛んでいく旅客機がただただ愛おしく、色調をいじったビビッドな青空の中で一際凛とした存在に映るのだった。

この時期思い出すのは北緯43度線だ。地球儀を人差し指でスピンさせてペン先を落とすと、その緯度で繋がる都市がある。札幌、ミルウォーキー、ミュンヘン・・・そうビールが旨い都市である。まあ、ミュンヘンは実は48度なのだが、僕の青いペン先は実に我侭なのだ。ビールは瓶に限る、ガス圧が高いから旨いとかガラスの方が冷えた状態をホールドしやすいとか、色々とあるが僕は違うと思う。あの栓抜きという行為が美味しさを倍増させてくれると信じている。カツ、グリ、シュポッのあの三段活用である。喉越しのゴクリという音は、実はビール会社の宣伝でいつからか脳内に響きわたるようになったらしい。

今日は妄想喫茶だった。井崎英典さんと僕の完全なる妄想上の喫茶店企画だ。毎回彼はコーヒーについて考えて、僕はカレーについて考える。今回はもう一度ムンバイの港をイメージしてみた。ミュンヘンから到着したばかりのドイツ人、フォルカー。北緯20度のこの街は湿度が高く、いつしか冷房から外にでると手の甲にもジワジワと汗が水滴のように浮かび上がってくる。ムンバイといえばIPAである、と彼は勝手に思い込んでいる。遠い昔の大航海時代に防腐効果が高かったホップを大量に入れてみたホッピーなあいつである。そんなIPAで喉を潤わしたフォルカーが食べたいカレー、それが今日のテーマだった。

そういえばコーヒーが育つ地域は北緯23度以南とされている、南半球も同様の緯度範囲だ。それが温暖化の影響で2050年には代表種のアラビカ種の作付け面積が半分になるといわれている。コーヒーの2050年問題というあれだ。この緯度をつないでみるとホーチミン、シンガポール、香港、そしてメキシコシティと、あの旅客機に飛び乗って訪れたい都市が数珠つなぎになっている。僕の妄想は今日も終わりなき旅に出ている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?