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命をいただくということ、京都の田舎の大鵬にて。

近所にあったDOWN THE STAIRSというお店で、時折SUPPER CLUBと題したポップアップをしていた。小さな喫茶店に家庭用に近いキッチンがついた小さな小さなお店、そこで京都の中國菜大鵬の渡辺幸樹さんと出会った。ググってみると2015年の10月6日ということだからだいぶ前の話だ。四川料理とワインがテーマの夜、すぐに彼の料理の美味しさに気づき、京都の彼の家族がやっている大鵬へと赴くことに。いわゆる町中華という雰囲気ながら、彼が特別におまかせのコースを作ってくれたことを覚えている。僕はすっかり忘れて
いたのだが、その御礼のメッセージに「幸樹さんのはなれみたいなそんなカウンターが出来たらいいね」みたいなやり取りをしていたことを、思い出させてくれた。

そんな彼が京都の綾部市の山奥に移住したという話を聞いた。ちょうど先日Noma Kyotoを訪れることになったので、予約をして海外からやってきていたシェフの友達を一緒に訪れることになったのだ。当日の予報はあいにくの雨、車をチャーターして90分の旅だ。上林にある蓮ヶ峯農場に到着した頃には、不思議と真っ青の天気が広がっていた。もともとは京都の大鵬にて取引をしていたことがご縁だという、そこから農場の中に小さな青空レストランを開くことになった。それが田舎の大鵬だ。すっかり農家のような顔になっていた幸樹さん、久しぶりの再会で僕もワクワクする。僕も人生色々とあったが、彼も色々とあったのだろう、そんな顔になっていた。「さかのぼってみたら、あの自分だけのカウンターのお店のやり取りが出てきて、こんなところに出来ました。」と彼は笑顔で語ってくれる。

急いで帰ってから、ディナーセッションを担当することになっていたので、少し急ぎ足の料理をお願いしていた。それでも到着したらお母さん鳥、いわゆる生きた廃鳥を用意してくれて締めるところから彼の新しい物語はスタートする。命をいただくということ、そして一度も冷蔵庫に入れない鳥を食べる。生産者の麓で料理することで、料理人と生産者の距離を可視化する。そんな新しい取り組みは、僕らの京都トリップのハイライトとなった。あまりにも感動したので、食事をしながら新幹線を3本もズラしてしまって、ギリギリの帰京になった。近年僕が食べた中で一番心に残った時間、それが彼の新しいチャレンジだ。僕もドキュメンタリー食の三部作で、「命の食べ方」を見つめた。だからこそ、彼のその実践には頭が下がるし、そして何よりも大切な教えをまた改めて頂いたような気がしたのだった。

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