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楽記とバルスバーと。

走るのと歩くのが好きだ。歩くといっても時間がある日は20キロぐらい歩くのでまあまあな距離となる。最近はほとんどの仕事が携帯でできる。このテクノロジーの進化には本当に感謝だ。昨日もロンドンとの定例会議は皇居周辺を歩きながら美しい景色をみながら進められたし、時間関係なくwhatsappなどのメッセンジャーはやり取りができる。僕の海外のチームは現在のところ大きくわけて3つの時間ゾーンに散らばっているので、朝はアメリカとメキシコ、夕方がロンドン、日中は香港とオーストラリアという具合でキャッチアップミーティングする。

走るスピードも好きだが、歩くスピードはもっと好きだ。この独特のスピードでみえる街の景色は全然違う。移動の多くはタクシーなどを使うことが多いが、例えば六本木から銀座までであれば30分ほどで歩ける。六本木からうちのオフィスまでも同じぐらいだ。1時間のミーティングがあれば、メンタルとフィジカルにもちょうどいい。トレッドミルで走るのが苦手な僕にとっては歩くことでマインドを整えられるのだった。

今日はその歩きながら見つけたひとつのビルについての話。ちょうど夏の熱いタイミングだった。大好きな美術館とうちがお世話になっている花屋、そして背筋が凛とする書店の路地の奥にそのビルがあった。どうやら管理物件になっているっぽい、すぐさま馴染みの不動産エージェントに電話する。だいたい物件は自分で歩いて探して、エージェントの助けを請うというのが僕のルーティンだ。

すぐさまエージェントは「あー、浜田さん、ここ空いていますよ。以前は中華が入っていたビルです。」調べてみると中華料理屋の名前は「楽記」、そう、日本にナチュールワインを紹介したと言われている名物ご主人だった勝山晋作さんが経営されていた場所だ。彼が手掛けた「祥瑞」もその「楽記」もともに訪れたことがなかったが、そのお名前はもちろん知っていた。残念ながら勝山さんはその2019年1月にお亡くなりになった。

ナチュールの伝道師であったことは全然知らなかった僕だが、不思議なことになぜか去年の初頭から僕は、ナチュールワインを勉強してみようと思い、60本ほど取り寄せて飲んでいた。数ヶ月頑張ってみたが、やはり僕はナチュールじゃない普通のワインが好きだという結論に至った。その結論に至ったあとぐらいに勝山さんがナチュールの伝道師であった上の事実を知ることとなる。勝山さんからナチュールを教えてもらったら、もしかしたら僕のナチュールワイン感も変わったのかも知れない。

その物件をみつけてほどなくして、僕らはその物件を契約することにした。3階建てのビルがその物件だった。管理会社の方がWAGYUMAFIAのファンだったらしく、コンペであったがかなり押してくれたらしい。本来であれば、2020年の1月には工事がスタートする予定だったのだが、コロナ禍に突入してすべてがストップとなった。オーナーとも相談してフリーレントの期間を延長してもらえるとことになった。実はWAGYUMAFIAは銀座に大きなプロジェクトをもうひとつ持っていた。ロンドンでのワールドツアーを終えて戻ってきた3月上旬の時点で、銀座は並木通りも誰もいないゴーストタウンとなっていた。僕らは苦渋の判断で銀座プロジェクトを凍結することに決めた。

もうひとつのこの3階建てのビル、そう外苑西キラー通りにあるこの案件をどうするか?散々悩んだ挙げ句、僕らはこの案件は進めようという結論になった。ここからインテリアチームのトップとのミーティングを重ねた。というのもこの物件は半分パン屋さんにして、半分オフィスとセントラルキッチンとして運営しようと思っていた。銀座を凍結したタイミングで、レストランとしてのある程度攻めたコンセプトを持ってこないとこのプロジェクトをやる意味がないと直感的に感じたからだった。インテリアチームとは今までのプロジェクトの中で一番時間を使ったと思う。

そこから9ヶ月。ようやく竣工したのがWAGYUMAFIA DISTRICTというビルだった。フロントファサードに新しく生まれたWAGYUMAFIAのハンバーガー屋、そしてWAGYUMAFIAのメンバーのみにアクセスが許された焼肉、ビル内に存在するシークレットガレージ内にあるホルモン鉄板。最後にテストキッチン・・・いや、まだここで終わらない、実はまだどこにも書いていないが僕と堀江のプライベートバーを作った。2016年に生まれたWAGYUMAFIAが今年の3月で5周年を迎える。その5年をしっかり刻む上で5つの顔を持つマルチコンプレックスがWAGYUMAFIA DISTRICTだ。

思えば僕らの黎明期を飛躍させてくれた西麻布のWAGYUMAFIAは、バルズバーの跡地だった。80年代の西麻布、六本木カルチャーを作った中心基地のような場所だ。僕もアメリカ帰りの20歳ぐらいのときにイエローで遊んでから誰かに連れていってもらったことがある、あのときは赤ピンクのネオンが僕がイメージしていた東京そのものだったような記憶がある。西麻布の仕事始めの日、植木にシャンパンをあけて前オーナーの弔い酒をした。

今回のWAGYUMAFIA DISTRICTはナチュールワインを一本だけオンリストした。そしてまたビルの横の植栽にこの夏であったナチュールの一本で献杯する予定だ。二人のようなカルチャーを作ってきた先人の努力の延長線上に僕らWAGYUMAFIAが存在できていること、しっかりと覚えておかないといけない。

追伸:冒頭写真はバルスバーのFBページより拝借した。

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