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5月30日の朝食会メニューの説明書

今日は僕がとても大切にしている朝食会の話をさせていただこうと思う。19歳のときにニューヨークの北野ホテルで働かせてもらっていた。そのときにいつかホテルをプロデュースしたい、そう思うようになった。この朝食会は、僕らがプロデュースするWAGYUMAFIAのオーベルジュで出される最高の朝食の原石である。僕の朝食会はそのすべてにおいてストーリがある、時間がある今だからこそ実現できたジャパンツアー。そのツアー先で出会った生産者や食材がテーマだ。今日は明日お出しする最新作の説明をさせていただきたい。

最初にお出しするのが白湯である。昨年、盛岡の鈴木盛久工房にて作っていただいた南部鉄器で丁寧に鍛えた白湯である。人の舌は昼食を食べる前が一番敏感だ。その繊細な舌で、この鍛えられた白湯を味わってもらいたい。そして静かに内蔵を起こそう。そして、自家製の甘酒と菌株の違う3つのヨーグルトを丁寧にブレンドされたものだ。これは僕が毎朝食べているものだ。真ん中に出雲で出会った金平糖をアクセントに乗せている。この2つのメニューはともに日本海を眺めている。

折笠さんという豪農の話を以前させていただいた。ご縁あって北海道ホテルの林社長よりサウナ飯のプロデュースをお願いされることになった。地元十勝の生産者を巡っている中で出会った人だ。彼の名前はとても格好いい。健と書いて、マスラオと読む。あまりにも格好いい名前だったので、初対面からマスラオさんと読んでいる。そんなマスラオさんのところで飲んだ試作のトマトジュースが頭に残っている。今回はまだ世に出ていないトマトジュースをゲストに飲んでいただく。肥料も農薬も一切与えずに選びぬかれた60種類からの単一品種、それを1mに成長してから水を一切与えない環境で育てたものをフレッシュスクイーズしている。朝食会に参加していただいた皆さんにぜひジャッジしていただきたい。合わせるズッキーニとセロリは、土浦の久松さんよりわけていただいているフレッシュな香りを味わっていただきたい。

続いては育てているぬか漬けの出番だ。この朝食会のひとつのハイライトが乳酸菌だ、自家製の糠漬けがたくさん出てくる。そう僕は糠漬けが大好きだ。まずはシグネチャーとなっているアボカドのぬか漬けである。アボカドの脂質に乳酸菌の酸味が丁寧にのって、まるでソースがかかっているかのような錯覚になる。小豆島のオリーブオイルで香りをつけている。

ここで皆さんにお配りするのが会津米だ。会津若松の寫樂で有名な宮泉銘醸、この契約農家の一人である小檜山さんに今回大切な酒米を分けていただいた。まず最初にお出しするのは蒸らしを一切入れていない煮え花の状態でのサーブとなる。お米は僕らのワールドツアーを支えてくれているバーミキュラーの鍋で炊いてご用意している。何もつけずに、まずは一口。そして軽く塩をひとつまみ。まだ荒々しい炊きたてのお米の状態を味わっていただきたい。これからこのお米は蒸らしに入り、またニュアンスが変わってくる。

そしてWAGYUMAFIAが創立する前からお世話になっているマグロのドンこと、やま幸の山口さんから那智勝浦の最高の突先が届いたので、僕らの契約農家である安曇野の藤屋わさび農園から届いた山葵をたっぷりかけて食べていただく。使う海苔は青のりが少しだけ混ざった有明産。合わせる醤油は、糸島のミツル醤油の生成りを使う。

今回はせっかくのシーズンなので日本が島国であることを忘れないように、各地の魚介を取り寄せている。北海道の食材を探して、たどり着いたのが二品。別海町から届いた最高のシマエビ。そして根室からのウニだ。シマエビは本来であればもう少し寝かしたものを使うが、あえてイキった状態のものを食べていただこうと思う。僕はこちらの方が山葵に合うような気がするからだ。ウニをあわせてもらってもよし、ウニ単体と食べてもらってもよし。マグロもこのシマエビもウニもすべて山葵が似合う食材たちだ。

ここで鳥取は湖山池で取れた大粒のシジミ汁を飲んでいただこうと思う。30人前になんと4キロを使っている。あえて冷凍することで旨味を引き出している、その後丁寧に火入れをして宮泉を落として酒の甘みを加えている。味付けはシンプルに塩のみだ。夏らしく冷製に仕上げているが、滋養たっぷりで肝臓にダイレクトに届く味だ。僕はこの時期のシジミと、WAGYUMAFIAのボーンストックを必ず飲んでいる。これだけで朝のパワーが違う。

一緒に料理をしている北川はもともと京都の人間だ。僕の父方も京都の家系だったので、京都の食事が好きだ。その中でもおばんざいは欠かせない京都の家庭料理の文化だろう。今回は霞ヶ浦の蓮根、そして宮崎の西都からやってきた綿付きPjマン、そこに最近WAGYUJISUKANで流行っているマッシュルームを。こちらは千葉の芳源より届いている。

再び帯広に戻る。氷室で熟成しているメークインを井上慎也さんという農家に分けてもらっている。地元ではイノシンさん、と呼ばれている。料理好きな人はこのニックネームだけで美味しいと思うだろう、イノシン酸に発音が近いからだ。彼からは2年熟成したメークイン、スチームで1時間火入れしたものを最後に鉄板で牛脂とともに火をいれて皮をパリパリにする。WAGYUMAFIAの幻の鉄板ホルモンではここにモールウォッシュしたラクレットを乗せて食べる。これが実にパンチがあり美味しいのだ、2年間糖度を増し続けたメークインはじゃがいもの領域を越えた味がする。そしてイノシンさんが作る長芋だ。この長芋は切ったままの状態そのままでお出しする、一切何も調理していない。ただ切った状態の長芋だ。この長芋が究極に美味しい。醤油と山葵をつけてもらってもいい。

ここでこの朝食会で生まれた、グリーシー・スプーンなメニューをお出ししたい。油揚げをカリカリにトーストにしたところに、マーマイトをベースに作ったソース。そしてバターを乗せた、そうイギリスの朝ごはん。ホワイトトーストとマーマイトだ。マーマイトを出すには理由がある、実はマーマイトは酵母エキスの原型のレシピを未だにそのままで出しているからだ。酵母エキス発明の歴史は19世紀になる、そうグルタミン酸の「味の素」の発見よりも長いのだ。このマーマイトは原型であるビールの絞り滓をもとに濃縮をかけてつくるものだ。元々はドイツの化学者であるユストゥス・フォン・リービッヒ男爵が発明する。ここで余談ついでにこの化学者は、植物の生育に関する窒素・リン酸・カリウムの三要素説を提唱し、化学肥料を開発した人でもある。旨味成分のひとつ核酸が特徴のこの酵母エキス。ビーフエキス開発のプロセスで、ビール酵母から肉の香りを感じることを発見した彼が作ったものだ。長くなるが、僕はこのマーマイトがとても好きだ。マーマイトはホワイトブレッドにバターをつけるのが一番いい。ただし、今回は油揚げでタンパク質をとってもらうことで、僕なりの疑似ビーフ感を出そうとちょっとしたウィットを入れている作品だ。

まだまだ朝食は続く、再び追いかけるのは以下の四種になる。

きゅうり糠漬け(八幡農園・聖籠町)/アオリイカ粕漬け(愛知 豊浜)
山利シラス(和歌山 加太沖)/実山椒(和歌山 海草郡)

糠漬けの王様はきゅうりだと思っている、この八幡農園は覚えておいた方がいい。色々なきゅうりを食べてきたが本当に美味しい。そして糠漬けにとてもよく合う。ここにアオリイカを粕漬けにして炭でやいたもの。シラス好きな僕がついに出会った山利の夏前の最高のシラス。ここにスタッフ総出で下処理した実山椒がアクセントになる。日本は実に豊かだ、山の香りと海の香りを存分に味わってもらいいたい。

今回朝食会で初めて炊き込みごはんをお出しすることにした。豆ごはんだ。このグリーンピースはとりわけ白米と合う。同じ彩度の緑ながら、実山椒特有の痺れる緑から、このグリーンピースの甘い緑へ。ご飯とともに彩りともに味わっていただければ幸いだ。そして、もう2品だけスペシャルな魚を用意させていただいていた。今年のツアーからとても仲良くさせてもらっている釣屋の釣社長。その彼から今回はサワラ8キロ(釣屋氷見富山)が届くこととなった。彼が独自に選んでいただいた最高の日本海のサワラだ。サワラは白身魚のように薄切りにするのが好きだ。ぜひ醤油とともに食べていただきたい。そして昨年ついに復活した浪江町の柴栄水産、「3キロ以上のヒラメはなかなか行き場がない」訪問時にそんな言葉をもらってから、時折分けてもらっている。今回のは3.5キロ、こちらは塩と酢橘で味わっていただこうと思う。

そろそろ白米に戻ろう。合わせるのは浜松梅だ。これは佃煮ふりかけだ。有名なブランドで錦松梅というものがある。どういうわけか幼い頃お中元かなにかで届いた錦松梅を丁寧に陶器から出す。そんな食卓の光景が年に数度あったことを覚えている。のりたまのふりかけはアルミ包装なのに、なぜか錦松梅だけは有田焼の器に入っているのだ。あのときの記憶を頼りに、僕なりの佃煮ふりかけを作ってみた名付けて浜松梅だ。そして青森の日沢さんからわけていただいた鶏卵の卵を、黄身だけづけにしてみた。卵がちょっとほしいという声が多かったので、今回お作りしてみた。

まだまだ白米が欲しくなるメニューが続く。盟友照寿司の渡邉大将からは特大の明太子をわけてもらった。これを牛脂でいぶして下部の20%を焦がしている。温度差を感じてもらいたいのと、僕らがいつも提唱している新しい寿司の在り方SUSHIMAFIAを一品で表現した牛脂の香りをまとった明太子である。

つづいてシンプルな一品尾崎牛のハンバーグが続く。丁寧に炭火で火を入れた弁当にしたいランキングナンバー1の実にシンプルな和牛料理だ。まずはそのままで、そしてご飯とともに塩を加えてもよし、醤油とわさびを和えてもよし。

今回久しぶりに和牛以外の肉をご用意しようと思った。それは十勝で出会ったマンガリッツァだ。ハンガリーの話は以前も書いたが、そのマンガリッツァを生体で輸入して300頭まで育てたという猛者がいると聞いて訪れたのだった。いい豚は焼くに限る。そして僕が大好きな豚の生姜焼き、このパンチが強い肉の味に日本が生んだ醤油と味醂の相性を存分に味わってもらいたい。

尾崎牛で作った豚汁ならぬ牛汁は、吉野家さんとのコラボで毎回お出ししているものだ。少し汁気を感じてもらい、いよいよクライマックスへ。バラ肉を乾き時雨煮にしている。最後のご飯の上にかけて、山葵をちょこっと乗せる。その上に加賀の棒茶を熱々の状態で流し込む。そう茶漬けだ。江戸時代に生まれたこの食べ方は、奉公人が手早く片付けるために番茶を流して茶碗をキレイにするという日本らしいアイディアから生まれた。そんな愛らしいエピソードに敬意を払いたい。食は文化なのだから。

そして今日一日の最後を締めくくるのは、このコロナ禍で最高の出会いとなった盟友、井崎英典による浜田ブレンドだ。今日の最初のA CUP OF JOE、一杯目のコーヒーだ。このコラムでも何度も登場する井崎さん、日本人で唯一のバリスタの世界チャンプである。そんな彼と純喫茶めぐりをしながら、あーでもないこーでもないといいながら焼いてもらったのがこのブレンドだ。僕のコーヒーの原風景は荻窪にある邪宗門という店だ。幼少の頃、苦くて全く味がわからないコーヒーを片手に分かった風でヘミングウェイを読んでいたのが30年前の僕である。そんな想いが井崎さんにも通じたのか、このブレンドは昭和らしい攻めたローストで、ミルクにとても合う。朝食会の当初はミルクコーヒー、すなわちミルコーでお出ししていたのだが、前回からストレートとミルクを分けるようになった。ちなみにグラインドしているのは元アップルのデザイナーの友人ダグラス・ウェバーが作った世界一のコーヒーグラインダーEG1である。ちなみに彼も糸島に居を構えている。

コーヒーに合う、ちょっとした甘味は小豆だ。この小豆は特別な小豆だ。再びマスラオさんに戻る。無農薬で作っている十勝の大地が生んだ大切な小豆だ。今年の小豆のトレンドの話は以前このコラムで書いた。ちょうどマンガリッツァの話も載っているので、時間がある際にでも読んでもらいたい。そう世界はつながっているのだ。

ちょっとしたお土産が今回もある。僕と成澤シェフとで始めたおにぎりプロジェクトだ。第四回は平和酒造和歌山に飛んでくる。その分けていただいたお米で炊いた塩にぎりをひとつ、皆さんにお持ち帰りいただこうと思う。朝食会、終わったら僕と成沢シェフは和歌山まで飛ぶ予定だ。おにぎりの炊き出しのライブ配信はインスタグラムの双方のアカウントで配信される予定だ。31日月曜日の朝7時ぐらいからインスタライブに参加してもらえたら幸いだ。



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