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世界一の「みりん」を学びに三河へ

コロナ禍から始まったおにぎりプロジェクトがいよいよ次のフェーズに突入する。山紫水明・・・水から始まり、そして米の素晴らしさ、この2つが融合したことで生まれた日本酒。この次はというと、酒作りから生まれた酒粕を用いたプロダクトへのバトンタッチだ。

そんなワクワクする想いを込めて、京都から再び名古屋に戻って、名駅で成澤シェフと合流する。そう今回は彼の生まれ故郷の近くでもある三州三河へ行く。そう、日本が誇る奇跡の調味料「みりん」だ。僕らもお世話になっている角谷文治郎商店さんにお願いして、製造の地を訪問させていただくことになった。

「私達はみりんを通して、お米本来の持つ美味しさに気づいていただきたい。」

みりんの歴史は500年ほどある。元々は琉球王朝から蒸留の技術がやってきて、そこから生まれたものだという。日本発祥説もあるが、蔵の中の香りはおにぎりプロジェクトでも訪問した石垣の請福酒造で感じた香りととても似ていた。みりんは免許製だ、今でも全国に免許は100程度存在している、その中で稼働しているものは50ほど。そしてこの愛知県の三河エリアには6つほどあるという。この地域は灘、伏見に匹敵するほど酒造りの産地だ。酒を作ると、酒粕が生まれる、その酒粕を用いて、蒸留の技術を使って生まれたのが粕取り焼酎である。その焼酎からみりんを作り始めたという。

今では日本の全国から選びぬかれたもち米を使って、焼酎を自家蒸留する。原料はもち米に対して10%程度のこめ麹、そこに発酵調整としての自家蒸留された焼酎が加わる。もろみ期間は3ヶ月程度、そして熟成に一年間をかけて完成されるのがこの三河みりんだ。今回特別に絞る前のもろみを食べさせて頂いた。そのままでデザートになるような、そんな芳醇で余韻の長いフレーバーだ。そして出来たばかりの本みりんを口に含んでみる。

「日本では長い歴史があるのでみりんというカテゴリーがありますが、世界的にみたら米を作ったリキュールです。」

先程からお話してくださっているのは、三代目の角谷利夫さんだ。カカオやアーモンドのような香りが口内に残る。ほとんどの人が知らないが、本物のみりんはそのまま飲んでとても美味しいリキュールだ。美味しいリキュールであるからこそ、少し足すだけで奥行きが生まれる料理になる。

先程の話ですが、人というのはお米を食べて喜ぶでしょう。でも、それは唾液に入っている酵素アミラーゼによってデンプンを糖に変えることで美味しさとして認識する。本当はもっと深い美味しさが隠れているとう角谷さんは話す。米がレジスタンストスターチとして小腸を通って大腸においても消化されないスターチとして存在することは近年の研究で分かっている。僕もこの2年ほど米の研究をしていて、自宅でも精米機を導入して色々な実験をしている。冒頭のみりんを通して米の本当の美味しさを伝えたいというのは、実に深い言葉だ。

深く口の中で転がしていると、色々な表情が生まれてくる。何気ない調味料だからこそ、忘れていた新しい瞬間だった。それは米一升を使って、みりん一升を作る、この昔ながらの方法でしか生まれない米とこうじが産む自然の神秘だ。あの言葉から僕は毎朝小さじ一杯のみりんを飲むことにした。角谷さんはこう続ける。本みりんと書いてあるでしょう。そして原料表示がある、その最後に糖類という表示がある。例えば大手の成分表示を今探して抜粋してみるとこんな感じだ。

もち米(タイ産)、米(国産)、米こうじ(タイ産米、国産米)、醸造アルコール(国内製造、ベトナム製造)、糖類(国内製造)

こう見るとタイ産のもち米が一番多く使われていると思うが、実はそれがトリックだという。みりんは酒類になるので、食品表示法とは異なる。使用しないといけない原料が前に来て、一番最後に添加してもいいものが来る。本みりん表記でも米10に対して25の糖類を入れてもいいのだという。これに僕は衝撃を受けた。

もち米 米こうじ 本格焼酎

これが三河みりんの原料表示だ。角谷さんのファミリーの治子さんがタンクを案内してくれる。表面にあるぎっしりと詰まっているもち米の状態がタンクのそこまで続いているという。それが米一升を使って、みりん一升の概念だ。米10に対して、焼酎は5、絞りで再び10になる。今でも職人が櫂入れをしているという、汗だくになって大変な作業であることは想像するに易い。

これからの僕の料理はみりんがますます主役になると思う。そんなワクワクする気持ちを胸に東京へと向かうのだった。貴重な経験ありがとうございました。


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