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南部鉄器とともに迎える日本の朝

この1年間で水を沸かすための道具に相当な時間とコストを使った。もう一度言おう。この調理器具は水を沸かす以外に役目はないのだ。その子の名前を「南部鉄器」という。

電動でもなく、重くて、熱くて、そして錆びやすいと来た。でもその子に僕は恋している。朝起きてから静かな火で水をコトコトと沸かす。風呂から出て水シャワーを浴びてシャキッとした頃には部屋の中が湿度でいい感じになっているのだ。

すべての音を消して静かに聞くと松籟(しょうらい)、、松の梢に吹き抜ける風の音がする。松風とも称されるのだが、茶道のために生まれたこの子を取り巻く言葉たちがなんとも美しい。

僕が使っている鉄瓶は鈴木盛久工房さんから分けていただいた亀甲霰平宝珠形鉄瓶。小さなフォルムのものを愛用中だ。マックスに入れると1リットルのお水、だいたい7割ぐらいで押さえて使うので700mlぐらい。家庭で使うにはとてもいいサイズだと思っている。

しっかりと湯垢づけをしてから使う。僕はエビアンで料理中にゆっくりゆっくりとつけていった。夏の時期は湿度もあるので、冬に南部鉄器を加湿も出来るしいいタイミング。育った湯垢で沸かしたお水はとても甘くトロトロした舌触り。これで苦味あるコーヒーや玉露を淹れるのだが、これこそが日本のカクテルなんじゃないかなぁと思う。

今度僕らが作ったTHE HIGHBALLSというバーには、いよいよ湯釜が導入されて静かに沸かしたお湯でピート香が効いている島系のシングルモルトをお湯割りにする。そこに塩昆布とかを合わせたら、まさしくジャパン。

ぜひこんな冬だからこそ、使い始めてもらいたい南部鉄器。お湯を沸かすためにこんな高い鉄瓶なんて・・・と皆さんおっしゃるが、手作業で作られる素晴らしい南部鉄器、すぐにそのクオリティに感動するに違いない。

モダンなデザインは釜定の宮伸穂さんが手がけられているシリーズが素晴らしい。僕もお皿やシャロウパンの製作で大変お世話になっている工房で、僕の南部鉄器の歴史は宮さんとのお話からスタートしたのだった。


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