iDeCoの「改悪」についての雑感と終身年金の話
iDeCoが改悪されたと騒がれています。
どう「改悪」されたかというと、iDeCoで積み立てたお金を60歳で受け取ると退職金と同じく所得から控除されます。退職金は一回で大きな金額を受け取るので、それで毎年そのくらいの収入がある高額所得者と同じ税率になるのは不自然であるということでしょう。
iDeCoの加入期間が30年だとすれば、控除額は1500万円となり、iDeCoは運用収益も加わるので人によりますが、全額が非課税となるケースも十分考えられるでしょう。
iDeCo節税の本質は「ダブル退職金控除」
iDeCoがなぜ節税に有利といわれていたかというと、iDeCoを一時金で受け取って、そこから5年以上経ってから会社の退職金を受け取った場合、この退職金控除がもう一回使えるからなのです(退職金を先に受け取った場合のルールはまた違うのですが、そこは今回変わっていないので説明は省略します)。
iDeCoに30年加入しており、会社に40年勤務していたとすると、iDeCoで1500万円、退職金で2200万円が非課税となるため、税率が20%の人で740万円も税金を納めなくてもよいことになります。
今回、なにが「改悪」されたかというと、この「5年」が「10年」になったということなのです。つまり、iDeCoを60歳で一時金で受け取り、これまでならば65歳で退職金をもらえばこの「ダブル退職金控除」が使えていたものが、これからは70歳で退職金をもらうようにしないと、この「ダブル退職金控除」が使えなくなってしまうということです。
問題は、退職金を受け取るタイミングは自分で勝手に決められるものではなく、定年退職してしまったらその時点で支払われてしまうので、節税できなくなってしまうことです。
「ダブル退職金控除」が使えなくなると、収めなくてもよい税金が、740万円から380万円と、大幅に減ってしまいます(一例での資産なので条件により変動します)。
これが、「改悪」といわれているものの中身です。
iDeCoは年金なのに、一時金受取りが有利な税制はそもそもおかしい
ネットでは、政府が後出しでiDeCoの節税効果を弱める税制改正方針を打ち出したことが批判されています。財務省としてはそもそも「ダブル退職金控除」が不公平だろうというスタンスのようで、まあそれは一理あるとは思いますが、とはいえ老後資金のためにiDeCoを積み立てていた人にとっては「後出し」で資金計画が狂ってしまうことはやはり困ってしまうでしょう。
ただ、iDeCoは「individual-type Defined Contribution pension plan」の略であり、この「pension」というのは「年金」なのです。つまり、iDeCoはそもそも年金なのであり、それを退職金のように一時金で受け取るのがもっとも有利な税制になっていること自体がおかしかったのは確かです。
略称が「iDeCo」なのもおかしいといえばおかしく、なぜ一番重要であるpensionの「P」が入っていないのかやや疑問です(語呂の問題だとは思いますが)。
また、年金といっても、5~20年の範囲で受け取る「確定年金」と一生涯受け取りが可能な「終身年金」ではまったく性質が違います。そして、老後資金としてもっとも有効な受取り方は、終身年金なのです。
「後出し増税」と批判されないよう、終身年金受取りを非課税にせよ
2023年(令和5年)の簡易生命表によると、65歳男性の平均余命は19.52年と、ほぼ20年です。では、仮に、65歳時点で仕事を辞め、その後は資産を取り崩して老後を過ごす人の場合、どのように取り崩すことになるでしょうか?
65歳時点で2400万円の資産を持っていたとして、平均余命が20年なので、毎年120万円ずつ取り崩そうと考える人はいないでしょう。いくら65歳時点の平均余命が20年といっても、自分が85歳以降も生きると想定せずに老後資金計画を立てることは現実的ではありません。平均値はあくまでも平均値です。
なので、取崩額を年80万円や年60万円などに抑えるとか、もしくは、「節約して取崩額をできるだけ小さくする」という方針で資産を使っていくことになるでしょう。
iDeCoを一時金で受け取るということは、こういう考え方になるということです。
一方、終身年金で受け取る場合は、景色がまったく違います。理論的には、2400万円分の終身年金に加入すれば、亡くなるまで毎年120万円がもらえることになります。平均値で考えた額がもらえるということです。
これは、逆にいえば、平均値に届かずに亡くなった人は、2400万円満額はもらえないということになります。これをデメリットと捉えるかどうかですが、高齢者自身にとっては、終身年金の方が明らかに使える金額は多いのです。
毎年120万円を全額使い切っても来年また120万円がもらえるわけですから、資産が枯渇することを気にせずお金を使うことができます。一方、一時金で受け取った人は、長生きしたせいで資産が無くなってしまうリスクを気にして、毎年60万円とか80万円とかしか使えないわけです。もちろん、自分の死後に遺族に残るお金という意味では意味があるでしょうが、自分自身にとっては「使い切れずに死んでしまった」という見え方でしかありません。
このように、老後資金は一時金で受け取るよりも終身年金で受け取った方が明らかに合理的なのですが、日本に限らず、世界各国で、終身年金はあまり人気がありません。この問題を「終身年金パズル」といったりもします。今後ますます進んでいく超高齢化社会への対策のひとつとして、終身年金はかなり有効になるはずなのです。
ぜひ、iDeCoの出口戦略で終身年金受取りがもっとも有利になるような税制にしてほしいと思います。というか、iDeCoの積立金を終身年金受取りとした場合は、完全非課税にすべきです(年金受取り時に他の所得とあわせて一定額を超えた場合の所得税は仕方ないと思いますが)。
iDeCoは社会制度なわけですから、税制も絡めてもっとも合理的な使われ方がされるようにしていかなければなりません。一時金受取りが多くの場合に有利になる現状の税制に問題があるというのは理解できますが、単にその節税の道を塞ぐだけでは「後出し」と批判されてしまいます。ぜひ、終身年金受取りを非課税にして、「これからはこっちで節税してください」と誘導してもらえればと思います。
よければ著書もごらんください。なお、本の中ではiDeCoの一時金受取りを誘導するようなことを書きたくなかったので「自分で調べてね」と書いています。今回世間が「改悪」と騒いでいるので少し詳細に書いてみましたが、一時金受取りを勧めるものではありません。税制がどうであろうとiDeCoは終身年金受取りにしましょう。