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聴かせて!「本島さかな部」のわがこと

今回は初の島嶼部へ!丸亀港からフェリーで30分、塩飽諸島にある本島で魚の魅力・魚食文化・島の魅力を届ける活動をしている「本島さかな部」さんにお邪魔してきました。
港から徒歩1分、部長を務める大石一仁さんとマネージャーのよねちゃんが運営する「海を休ませるレストラン」で美味しいお魚料理をいただきながら、本島&お魚への愛情たっぷりのお話を聴かせていただきました。

Vol.16
本島さかな部

「海を休ませる」ために

—どのお魚も美味しいですね!旨みが濃厚で、歯ごたえもあって。

大石さん:ありがとうございます。新鮮なのはもちろんですし、きちんと下処理しているので臭みがないんです。

―普段私たちが食べることのない、見慣れない魚もありますね。

大石さん:チヌはあまりスーパーでは見かけないかもしれませんが、マヨネーズと和えると美味しいですよ。
あと、イシダイはこの辺りの海ではほとんど獲れないんですがすごく美味しい魚で、たまに獲れると市場に出回ることなく島内で消費されています。

「海を休ませるレストラン」で取材当日にいただいたランチメニュー。
未利用魚や養殖魚を活用しています。新鮮でとても美味しい!

―島ならではの味わいなんですね。「海を休ませるレストラン」という店名も面白いですが、この名前はどのように付けられたのでしょうか。

大石さん:ここは私たちが立ち上げた「塩飽Fisheries」という会社の事業として運営しています。
漁に出る回数を減らすことで魚の資源量を回復させたい、という想いから「海を休ませる」という言葉を使っています。

昔と比べると、魚の資源量がいまはどんどん減っているんです。

瀬戸内海はあまり外海から流れ込んでこない閉鎖性の高い海で、かつては生活排水がそのまま流れ込んで魚のエサになるプランクトンが大量に発生してて、それが赤潮が発生する原因にもなっていました。
いまは排水が規制されるようになって赤潮はなくなったんですが、こんどは海が綺麗になりすぎて、魚のエサまで減ってしまったんです。

その少なくなった魚を漁で獲ってしまうと、さらに資源量が減ってしまう。だから資源量を回復させるには漁に出る回数を減らす必要があります。

でも、ただ漁を減らすと漁師は収入が減り困ってしまいます。
だからこのお店では
①市場よりも高値で魚を買い取ること
②市場に出回らない未利用魚を活用すること
③養殖魚を活用すること
で、持続可能な漁業を作る=「海を休ませる」ための提案をしているんです。

—海を休ませながら、漁師さんの暮らしも守るための提案なんですね。

大石さん:漁業って、消費者のもとに届くまでの流通経路が複雑で、漁師の手元に残るお金はあまり多くないんです。
そうすると、収入のためにはたくさん獲らざるを得ない、ということになります。

市場以外に魚の販売先を見つけてより適正な価格で売れるようにすることで、たくさん獲らなくても生活できるようになることが大事だと考えています。

—漁師さんの高齢化というのも聞きますが、いかがですか。

大石さん:そうですね、全国的に漁師は減っていて本島も例外ではないです。でもその一方で、若い人も増えていますよ。

次世代のためにも、今からでも少しずつ環境や考え方を変えなくては、というのはありますね。

右が部長の大石さん、左がマネージャーのよねちゃん。
ご夫婦で活動されています!


こどもたちに魚を好きになってもらいたい

―改めて、本島さかな部の活動について教えてください。

大石さん:活動を始めたのは4〜5年前になります。運営スタッフとしては主に私たち2人を含め4名でやっています。
会社のほうは「持続可能な漁業」がテーマですが、こちらは魚の魅力を知ってもらい、「魚食文化を広める」こと、それと「本島の活性化」をテーマに活動しています。

―部長が大石さんで、よねちゃんがマネージャー。マネージャーはどんなことを?

よねちゃん:広報だったり周りの人とコミュニケーションをとったりするのが主な仕事です。裏方ですね。
あと「海を休ませるレストラン」では調理を担当しています。

―本島さかな部では、具体的にはどんな活動をされていますか。

大石さん:春に「サワラ祭り」、秋に「タコタコフェスティバル」というイベントをやっています。毎回500〜700人くらいの来場者がある大きなイベントになっています。
本島は丸亀行きの船だけでなく、対岸の児島(岡山県)行きの船もあって、そちらからもたくさんの人が来てくれています。

あと、こどもたちに魚に触れてもらいたい、魚を好きになってもらいたいという思いから、小学生までのこども向けに魚さばきの体験イベントを月に1〜2回程度やっています。
本島さかな部ではこども部員制度を設けていて、島外に40〜50人程度のこども部員がいるんですよ。

こうしたイベントを本島で開催することで、島外の人に本島に来てもらうきっかけになって、島の活性化に繋がればいいなと思っています。

サワラ祭りの風景。
青い空にサワラの幟が映えます。

—こども部員というのは面白い仕掛けですね。

大石さん:漁業の将来を考えるうえで、日本人の魚離れが問題になっています。日本人が魚を食べなくなっているんですね。
その理由を考えてみたんですが、「美味しい魚を食べていない」というのが大きいんじゃないかと、私たちは考えています。これはあくまで肌感覚なんですが、魚嫌いの人に「ここの魚は美味しいから食べられた」って言われることが多いんです。

魚さばきイベントでは、こどもたち自身に魚をさばいてもらいます。生きている魚を締めますし、大量に血が流れる血抜きも自分たちでやります。そうやってさばいた魚を刺身や煮付けにして食べるんです。
こうすれば自分でさばいた魚が美味しいって分かってもらえますし、目利きのしかたや旬も知ってもらうことで、もっと魚を食べてくれるようになればいいなと考えています。

実は最初の方は大人向けにやっていたんですが、途中でこどもたちの方が全然食いつきがいいことに気付いて、それからはこどもたちに体験してもらうのを大事にしています。

—漁業の将来はこどもたちにかかっている、ということですね。

大石さん:昔の人は自分で魚を選んで、さばいて食べていました。そのころは日本は「お魚大国」と言われていて、漁獲量も消費量もとても多かったんです。でも、いまはどちらもすごく減ってしまっています。

共働きの家庭が多いから、晩ご飯も惣菜を買ってすませたりして、なかなか美味しい魚を子どもたちが食べる機会がないんだと思います。調理に手間がかかるし、魚の臭いを敬遠する人も増えているようです。
だからこそ、魚に抵抗のないこどもたちにまずは興味を持ってもらえたら、というのはありますね。

昨年の「タコタコフェスティバル」のチラシ。
見ているだけで楽しそう!


本島暮らしは「非日常」

―大石さんは生まれも育ちも本島なのですよね。よねちゃんは?

よねちゃん:私は丸亀で生まれ育ちました。本島港の近くにある「本島スタンド」というお店で働くようになったのが、この島に来たきっかけなんです。
最初は仕事場が本島ということだけで特に意識はしてなかったんですが、島に通っているうちに「ここは非日常だな」と感じて、だんだんのめり込んでいきました。

—この島の魅力にひかれたんですね。

大石さん:彼女と結婚するまで、「島から見える瀬戸大橋がきれい」っていう意味が分からなかったんです(笑) だって、私にとっては生まれた時からそこにある、当たり前のものだから。
彼女が「こういうのがええんやで!」と島の魅力を話しているのを聞いているうちに、本島を客観的に見れるようになった、というのはありますね。

―大石さんは本島のどんなところが好きですか?

大石さん:まず魚が美味しい!それは間違いないです。それに早朝に漁に出て船の上で見る朝日は本当に綺麗ですよ。
気候もいいですね。岡山と香川が雨でもここだけ晴れているなんてこともありますね。
あと、空気がいいから喘息持ちの人もこの島に来たら治ったという話を聞いたことがあります。

笠島集落は江戸末期の建物も残る、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
塩飽の人びとは卓越した操船技術から幕府に一目置かれ、特別に自治を許されていました。

―逆に、困ったことや不便なことはないですか。

大石さん:島内にはおじいちゃんおばあちゃんがのんびりやっているお店しかないので、買い物のときは船に乗ります。ほとんどの人が丸亀に車庫を持っていて、船を下りたら車に乗り換えるんです。
船の便数が少なくて、買い物に行くとどうしても半日以上かかるので、帰りの船の時刻までどう楽しむか、計画的に行動しますね。

ネット環境が5〜6年前に整備されたおかげで、いまは島にいて住みづらさを感じることはほとんどないです。
Amazonもフェリー会社の人が家まで配達してくれて、離島だから時間がかかるとか、追加料金が必要ということもないので、すごく便利ですよ。

―おふたりのお子さんたちは島で獲れるお魚、好きですか?

よねちゃん:そうですね、よく食べます。6月頃はマナガツオを煮付けにして、朝ごはんに出しますね。

―お父さんの獲ってきた新鮮なマナガツオを料理上手なお母さんが煮付けに。贅沢な一品ですね(笑)

島で獲れたサワラと新玉ねぎでサワラのたたき丼。
「本島のサワラなら毎日食べても飽きないんです」とよねちゃん。


もう一度日本を「お魚大国」にしたい

—これからのことについて考えていることがあれば教えてください。

よねちゃん:本島さかな部はまだまだ体制を整えているところですが、まずは「魚の文化を広める」という目標に向けて、情報発信をしっかり続けていきたいです。

大石さん:これまでは手弁当でやってきましたけど、それだと続けて行くのは難しい。収益化して、人を雇う形に移行していけたらというのはあります。なかなか難しいですが。

—「海を休ませる」ことも大事ですね。

大石さん:養殖に力を入れれば、その分漁の回数を減らすことができます。実際、養殖ってめちゃ大変なので漁に出る体力が残らないというのもあります(笑)

「海を休ませるレストラン」では、お客様に「魚っていろんな食べ方ができるんですよ」ということを伝えていきたいです。チヌやボラも美味しく食べれるんだよ、というのを提案していきたいですね。

魚さばき体験中のこども部員さん。
すごく真剣な表情!

—美味しい魚を食べることが海を休ませることに繋がる、というのがいいですね。

大石さん:資源保護ということを考えると、漁師さんが漁に出る回数を減らすのが一番です。
たとえばノルウェーは国策で漁師さんに休業補償をして5年ほど漁を減らし、資源を回復させています。また、震災のあった東北の海はしばらく漁ができなかった間に漁獲高が激増していて、そのことに気付いた漁師さんたちが漁の回数を減らして資源を保護するようになっています。

ただ、日本では休業補償がないから、どうしても生活のためには漁に出ないといけないんです。それに、腕のいい漁師さんほどたくさん獲ってしまうというジレンマもあります。

結局、持続的に漁の回数を減らすには、漁師からの魚を高く買うのが一番なんです。市場に出すと安く買われてしまうけど、漁獲量を減らしてもその分高く売れればいい。

だから自分で魚屋もやっているんです。丸亀のフェリー乗り場でも週1回販売しますが、基本的にはインターネット上で販売しています。
いまはSNSでお客さん個人と直接繋がることができるし、スーパーで買うより漁師から直接魚を買う方がずっと美味しいですから。

―漁業も今の時代に合わせてアップデートが必要なんですね。

大石さん:インターネットの産直サイトで魚を販売する人も増えています。市場よりも高く売ることはできるんですが、売り方のコツが分かっていないとなかなか利益を上げるのは難しいんです。
個人で利益を上げるのが難しいなら、まとまればいい。たとえば自分たちの会社で塩飽諸島のサワラを全部買い取って、関サバのようにブランド化して販売するなんてことができたらうれしいですね。

魚がたくさんいる海に戻すこと、美味しい魚をみんなが食べることで、もう一度日本を「お魚大国」として復活させたい。それが私たちの夢なんです。



取材を終えて

「海を休ませるレストラン」でいただいたお魚は本当に素晴らしくおいしかったです(個人的にはチヌマヨと鰆の白子の天ぷら!初めていただきました)。
そのひとつひとつのお料理について部長の大石さんに解説していただきましたが、その時の大石さん、そして、インタビューで本島さかな部についてお話してくれている大石さん…大石さんからは、とにかくずっと「何か」があふれていました。

魚への愛、地元本島への郷土愛、漁師としての誇り、海に対するリスペクト、日本をもう一度お魚大国にしたいという真剣な思い…。
もちろんそれだけではありません。本島から丸亀に渡る船に乗るときには、家族4人でお見送りいただきました。その時の大石さんとよねちゃん、お子さん2人の笑顔も忘れられません。
魚だけではなく、瀬戸内海、日本、SDGsについて考えさせられる貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございました!これからの活動も楽しみにしております!

本島のびっくりするほど気持ちのいい青い空と瀬戸内海、ぜひたくさんの人に経験していただきたいです。

青い空と海、瀬戸大橋をバックに、取材メンバーと集合写真。
お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。また美味しいお魚を食べに行きたいです!


本島さかな部
 Web:https://honjima-sakanabu.com/
 note:https://note.com/honjima_sakana
 instagram:https://www.instagram.com/honjima_sakana/


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