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甲状腺検査アンケート 「アンスケアの見解を入れるべき」 強要を迫る環境省〜「県民健康調査」検討委

 東京電力福島第一原発事故後に福島県が実施している「県民健康調査」を評価す る46回目の検討委員会が2日、福島市であった。

 この日の会合で、県は「甲状腺検査」の対象者らに検査のメリットとデメリットについての認知度を調べるアンケート案を、検討委に示した。

 原発事故による被ばくの影響は見られそうもないとする、アンスケア(原子放射 線の影響に関する国連科学委員会)報告書の見解を設問に加えるかどうかを巡り、激しい議論になった。

 火つけ役は環境省の神ノ田昌博・環境保健部長で次のように切り出した。

 「アンスケアは放射線被ばくが原因となるような、将来的な健康影響は見られそ うもないとしている。それを県民が理解しているか、今回の調査で把握して頂きた い」
 「放射線の健康影響に関する科学的知見というのは、福島県における風評払拭を進めていく上で、非常に重要なポイントだ」

 この発言に対して、福島大学の富田哲教授はアンスケアの報告に疑問を持っている県民も多いはずとした上で、それを加えると「アンケートの信頼性が失われるのではないか」と懸念を示した。

 神ノ田氏の賛同者は、国立がん研究センターの中山富雄・検診研究部部長や宮城県立子ども病院の室月淳・産科科長らで、「アンスケアの結論を加えて頂きたい」「被ばくによる健康影響はないと示すべき」などと支持した。

 双葉郡医師会の重富秀一副会長は「今後の検査をどのように継続するかの意識調査」であって、「アンスケアの周知は別の問題ではないか」と疑問を呈した。

 神奈川県予防医学協会の吉田明・婦人検診部部長も「今回の調査は受診者が検査 のメリットとデメリットをわかっているかどうか」を調べるためのもので、「アン スケアの結果を入れるとそれに引っ張られて、この調査が正しく出来なくなるので はないか」と指摘した。

 それでも神ノ田氏は「(対象者に)必要な情報を与えずに検査を続けるのが、この事業のやり方として正しいのか」、「調査のバイアスがかかるということではなく、当然やるべきこと」だと主張した。

 福島県病院協会の佐藤勝彦会長は「アンスケアを前提としてアンケートをするのは、安心を与えるというよりも、結果を押しつけることになるのではないか」と諭した。

 神ノ田氏はさらに「この検討委の場でも、検査で見つかった甲状腺がんは放射線の影響ではないとしてきた。その評価は伝えるべき」だと強調した。

 それに対して吉田氏はこう指摘した。

 「今のところは放射線の影響は考えにくいという評価があったが、もし影響がないと結論づけられているのであれば、こういったところで議論する必要はないのではないか。ですから今までのことと今後のことは違うと思います」

 富田氏は「確かに原発事故と甲状腺がんとの因果関係は認められないというのが、 ここでの結論だった」と述べつつ、こうくぎを刺した。

 「あの時、私はそうは考えないとし、少数意見を書いた。私としてはあの時の意 見も付記した上で、県民に伝えて頂きたいということを申し述べておきたいと思い ます」

 このように委員の間で賛否が割れたことから、高村昇座長(長崎大学原爆後障害 医療研究所教授)は次回の検討委で再度議論するとした。この日の議論を踏まえた上での座長案を次回提示するという。

 環境省としては日本政府が7千万円を拠出したアンスケア報告書を活用したいの だろうが、この検査は住民の健康を長期に見守ることが目的で、風評払拭のため検 査ではない。

「アンスケアの周知は別問題」と述べる重富・双葉郡医師会副会長(手前)の意見に対して、
天を仰ぐ神ノ田・環境省保健部長(奥)
次回座長案を示すとした高村座長=2022年12月2日、福島市のウエディングエルティ

 もともとこのアンケート調査は、検討委の下部組織である「甲状腺検査評価部会」の要請で始めることになった。

 この調査の目的は、県が対象者に配布している検査のメリットとデメリットを示 した冊子の内容が理解されているかを確認し、今後の検査の在り方についての議論 の参考にするとされている。

 その冊子では、▽検査のメリットとして早期診断・早期治療による利点や、▽デメリットとして日常生活や命に影響を及ぼすことのないがんを発見することなどを示している。

 治療の必要のないがんを見つける「過剰診断」が起きているとし、検査の継続に否定的な評価部会の委員らが、デメリットとして冊子に盛り込ませた内容が浸透しているのかを確認するための調査とも言えるだろう。

 県は来年6月ごろに無作為に抽出した1万6千人の対象者らから、郵送やウェブで回答を募るとしている。

339人のがんもしくは疑い 最大腫瘍径は46.7ミリ

 また、福島県立医科大学は甲状腺検査の6月30日現在の結果を公表した。5巡目検査では前回報告(3月31日時点)から12人増え、計23人ががんもしくは疑いと診断された。

 この23人の前回検査(4巡目)の結果は、A1が7人、A2が11人、B判定が3 人、未受診者は2人だった。腫瘍の大きさは7.0〜46.7mmで、前回の7.5〜14.7mmと比較すると、短期間の内に早いスピードでがんが増殖していることがわかる。

 これまでの1〜5巡目と25歳時の節目検査を合わせると、計296人ががんもしくは疑いとなった。このうち、がん確定は237人(良性の1人を除く)で疑いは58人。

 このほか、地域がん登録と全国がん登録(2012〜2018年)で把握された患者は43人で、県民健康調査の集計分と合算すると計339人ががんもしくは疑いと診断されている。


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