ガパオの謎
ブックイベントなどへの出店で『ガパオ タイのおいしいハーブ炒め』(下関崇子 著 ferment books刊)を販売していて、いつも思うことがある。「ガパオ」がタイハーブの名だと知っている人は、意外と少ない。
表紙を見て、
「えー!ガパオ専門書!?」
と、食いついてくれる人も、「ガパオ」とはタイハーブの名前なんですよ、と説明すると、
「初めて知った!」
と驚いたりすることが多い。
「ガパオ」という言葉や、ひき肉と目玉焼きのキャッチーな見た目には、かなりの親しみを持ってくれているのに、「ガパオ」という言葉が何に由来しているか知らない人は多いのだ。
一方、「ガパオ」がタイハーブの名だと知っている人も、もちろんいる。
そういう人に限って、ガパオはホーラパーと同じくバジルの一種で、ガパオを加えて炒めたものが「ガパオ炒め」で、それをライスに添えたものが「ガパオ炒めライス」であり、ともに略して「ガパオ」と呼ぶことがある、というくらいのタイ料理に関する知識がすでにあったりする。
知っている人と知らない人の間の溝が大きい。
ここが埋まるといいのかな、と思ったりする。
その溝がなぜ大きいか考えてみる。
思うに「ガパオ」という一語が「ガパオの葉」も「ガパオ炒めライス」も意味するという事実そのものに、ちょっとした飛躍がある。
「ニラの入った料理を『ニラ』と呼ぶようなものだ」
と誰かが言ったが、確かにその通りだ。
「ガパオ」の一語で「ガパオ炒め」や「ガパオ炒めライス」の意味になるのは本場タイでも同じだが、他方、ホーラパーの入った料理を「ホーラパー」と一語で表現することはない(たぶん)。ニラの入った料理を「ニラ」と一語で表現することがないのと同じように。
つまり「ガパオ」というハーブのポジションが、けっこう特殊なのだ。
どうしてガパオは、他のハーブと違うポジションにいるのか?
つまり、本来はメイン食材に香りを添える役割を担うサブ的存在であるはずのハーブの一種が、主役級の位置を与えられている。それは、どうしてなのか?
これこそが「ガパオ」の大いなる謎なのだ。
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