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【訴状より】大川原化工機 国賠訴訟の概要

和田倉門法律事務所
大川原化工機及び同社社長他幹部が外為法違反(不正輸出)として起訴された事件で、2021年7月30日、第一回公判期日を目前に控え、検察官は異例の起訴取り消しを行った。これを受け、東京地裁は8月2日に公訴棄却を決定。事件は突然に終了した。2021年9月8日、大川原化工機らは、警視庁公安部による大川原氏らの逮捕、及び検察官による起訴等が違法であるとして、東京都及び国に対し、総額約5億6500万円の損賠賠償請求訴訟を提起した。

提訴当日に行った記者会見は多くの報道機関に報道されました。しかし、外為法という難解な法令に関する事件であることや、捜査機関の裏側にスポットを当てなければならない小説のような事案であるため、字数に制限のあるニュースでは、一般の方が本件を理解することは困難です。

そこで、この記事では、刑事事件で弁護人をつとめ、今回の国賠請求訴訟で原告代理人をつとめる当事務所より、訴状の冒頭部分を抜粋して、事案を紹介します。

(担当弁護士:高田剛鄭一志河村尚瀬川慶小林貴樹

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スプレードライヤとは

噴霧乾燥器(スプレードライヤ)とは,液体や液体・固体の混合物を熱風中に噴霧して,溶媒を蒸発させて粉末を得る装置である。インスタントコーヒーやインスタント食品の粉末スープ,健康食品等の食品分野のほか,化学,製薬産業における乾燥粉体の調製に幅広く用いられている。大川原化工機株式会社は,日本における噴霧乾燥技術のリーディングカンパニーとして,国内の企業のみならず,中国をはじめとする東アジア,東南アジア,ヨーロッパ,米国に多くの噴霧乾燥器を納入してきた。

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無許可輸出による逮捕・起訴

本件は,大川原化工機株式会社が自社製の噴霧乾燥器RL−5型1台を経済産業大臣の許可を得ずにドイツ大手化学メーカーの中国子会社に輸出したことが,外為法上の輸出管理規制に違反するとして,大川原化工機株式会社,並びに同社社長である大川原正明,同社取締役であった島田順司,及び同社顧問であった相嶋静夫を被疑者とする警視庁公安部及び検察官による捜査がなされ,令和2年3月11日,当該輸出に関して大川原正明ら3名の逮捕及び勾留請求がなされ,検察官により大川原化工機株式会社をあわせて4者の起訴がなされたという事案である。
その後,別の噴霧乾燥器L−8i型1台の大川原化工機株式会社の韓国子会社への輸出について,令和2年5月26日に大川原正明ら3名の逮捕(再逮捕)及び勾留請求がなされ,検察官により大川原化工機株式会社をあわせて4者の起訴がなされた。

※ この記事では割愛しますが、噴霧乾燥器の規制要件は3つ(イ・ロ・ハ)あり、大川原化工機は該非判定において「ハ」の要件を「非該当」として輸出しました。警視庁は、本件機器が「ハ」の要件にも該当するとして、立件しました。 

公判前整理手続による攻防から起訴取り消しへ

大川原正明ら3名は逮捕後,一貫して無罪を主張し続けた。そして,一年間以上の公判前整理手続を経た後,第1回公判期日の直前である令和3年7月30日,各噴霧乾燥器について「法規制に該当することの立証が困難と判断された」との理由から,検察官により公訴取消申立がなされ,同年8月2日,東京地方裁判所により公訴棄却決定がなされた。

警視庁公安部の捜査、長期の身柄拘束

警視庁公安部による本件の捜査は遅くとも平成29年5月ころには開始され,平成30年10月3日,大川原化工機株式会社の本社その他の営業所及び役職員の自宅に対する捜索差押がなされた。また,当該捜索差押後,大川原正明らの逮捕までの約1年6か月間にわたり,大川原正明らを含む大川原化工機株式会社の役職員48名に対し延べ264回の任意の取調べが行われた。
また,起訴後も大川原正明ら3名の勾留は続き,亡相嶋は勾留中に体調を崩し胃癌であることが判明,令和2年10月16日に勾留執行停止となった後は病院及び自宅で治療を続けたが,令和3年2月7日に死亡した。大川原正明及び島田順司の勾留は,令和3年2月5日に保釈されるまでの間,約11ヶ月間継続した。なお,その間弁護人により5回(亡相嶋については7回)の保釈請求がなされたが,いずれも退けられた。

起訴取り消しの理由

公訴棄却の事由は,上記のとおり,検察官が,各噴霧乾燥器について法規制に該当することの立証が困難と判断されたとの理由により公訴取消を申し立てたことである。すなわち,大川原正明らの故意ないし共謀といった主観的要件以前の問題として,各噴霧乾燥器が法令の定める客観的な規制要件を満たすものでないことが明らかになったことによる。
 この点,東京地方検察庁公判部は,公訴取消申立に関する記者会見において,「起訴後に弁護側の主張に基づいて再捜査し,判断を見直す結論に至った。反省すべき点もあった。長期間の身柄拘束に対し補償が生じるなら適切に対処したい。」などとコメントした。

警視庁による捜査は「立件ありき」の違法なもの

しかし,警視庁公安部において本件捜査にあたったY警視,M警部,A警部補らの警察官は,遅くとも逮捕前において現に収集した証拠資料,及び通常要求される捜査から収集し得た証拠資料から,本件各噴霧乾燥器が客観的な規制要件に該当しないことを知り,又は当然知りうべきであった。

したがって,捜査機関による大川原正明らの逮捕及び勾留請求は,各噴霧乾燥器が客観的な規制要件に該当しないことを知り,又は当然知りうべきであったにもかかわらず強行した違法なものである。特に,警視庁公安部は,各噴霧乾燥器が客観的な規制要件に該当しないことを示し,又はこれを疑わせる証拠を捜査の過程で入手しながら,「立件ありき」の姿勢でこれらの証拠を不合理に無視し,T検事に対して送致ないし報告をせずに警視庁公安部内に留めた点において,違法性は極めて強い。

自白獲得に向けた不当な捜査

さらに警視庁公安部のA警部補による島田順司に対する取調べは,事前に作成した捜査機関に有利な恣意的内容の供述調書について,誘導や詐術的発言,恫喝を含む不当な言動等により,島田順司に対して不当な心理的影響を与えて署名指印を強要した違法なものであった。また,島田順司の弁解録取手続きに至っては,弁解を聞くこともないままに事前に作成した弁解録取書について,詐術を用いて原告島田に署名指印させ,島田順司がかかる詐術に気付くやその証拠隠滅を図るなど,様々な点で違法なものであり,警視庁公安部の「立件ありき」の姿勢がよく看取できる。

ウソを見抜けずに起訴した検察官

また,T検事による起訴についても,(警視庁公安部から一部情報の報告を受けていなかった点を踏まえてもなお)本件各噴霧乾燥器が客観的な規制要件に該当しないことを当然知りうべきであったにもかかわらず,漫然とこれを見落として強行したものであり,違法の誹りを免れ得ない。


※ 訴状の冒頭部分を一部固有名詞を記号化するなどしてほぼ抜粋したものです。本事件に関する取材等は当事務所宛ご連絡下さい。

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