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「Web制作会社がなくなるってホント?」Web制作会社を14年間経営した筆者が現状と未来を検証してみた。

こんにちは。和田へいです。

経済産業省の統計によると、web制作会社を含む「課金・決済代行及びサイト運営業務」の2022年の合計売上高は、約1兆2191億円だそうです。

2019年から3年間で成長率が約30%と、新型コロナの発生に伴いインターネット業界の中でもweb制作周辺の売上高が急速に伸びているのがよく分かります。

出典:経済産業省 特定サービス産業動態統計調査

うちの会社も似たような売上成長率になったのですが、手腕ではなく時代だといま理解しました。そんなコロナ特需とも言える状況の一方で、Google検索のサジェスト(候補キーワード)やtwitterでよく見かけるのが「web制作 オワコン」「web制作会社 なくなる」というフレーズ。

さもありなんと思いつつも、自分の中でも整理しきれていないテーマです。いまだ全国に1万社以上あると言われるweb制作会社に未来はあるのでしょうか。自身の経験を交えながら考えてみようと思います。

分析方法

分析方法

今回分析には、環境分析フレームワークのひとつであるファイブフォース(5F)分析を使用します。簡単に言うと業界にある5つの脅威を整理して「この業界はこの先メシが食えるか」とか「生き残る方法」とか、いろいろと考えるのに便利です。

本来であれば、客観的なデータに基づいて各項目の脅威やリスクを正確に測るべきですが、今回はWEB制作会社を14年経営してきた個人の意見ということでご容赦ください。

では、各項目を解説していきます。

(1)業界内の競合他社の脅威【大きい】

(1)業界内の競合他社の脅威

・競合ひしめくレッドオ―シャン
・異業種より様々なプレイヤー参入、競争激化
・一次請けと二次請け、メリデメを理解して使い分ける
・自社のポジションを戦略的に考える

web制作会社の競合といえば、直接競合のweb制作会社、広告代理店、システム会社などに加え、コロナ禍により企業のDX化やweb活用の機運が一気に高まったことで、マーケティング/営業支援、Saasベンチャー、コンサルなど「企業のビジネス課題解決」に長けた競合の存在も目立つようになりました。

コンペに呼ばれる場合、これらの顔ぶれがバラエティ豊かにエントリーしてきますので「web制作会社枠」としての戦い方を工夫しなくてはなりません。

目的によりますが、クリエイティブに重心を置きすぎると「褒められて2位」みたいなむなしい敗れ方をするので、企画戦略パートで拮抗した状況を作ってクリエイティブでハートをわしづかみにするとそこそこ勝てます。

ただ、このような直接の取り引きは「自身で考えて生き抜く」力や深い信頼関係を築けるクライアントとの出会いが得られますが、規模の小さい会社には競争と失注のリスクが重く重くのしかかります。

私の場合は、パフォーマンスを上げるために深い顧客理解と感情移入ができる一次請けにこだわっていましたが、業界全体が潤っている状況であれば、先端の細い部分で戦わなくとも、代理店や大手制作会社など、仕事が集まっている競合の仕事を請けるという選択肢も考えられます。

私たちも創業したばかりの頃は代理店の仕事を多く受けていました。何かと振り回されますが、信頼関係を築いてしまえば、営業的にはローリスクで安定して仕事を請けられました。

ただし発注者の立場からすると、外注を利用するメリットは仕事がない時に出費をセーブできることです。固定給の従業員ではそうはいきません。コロナのような不測の事態や、変化のスピードが速い現代においては、すべてを依存してしまうことも大きなリスクになります。

現在の二次請けを巡る状況をくわしく把握していませんが、フリーランスから高品質下請けまでバリエーション豊富で、私たちのような零細のweb制作会社ですら同業からたくさんの営業メール受け取っていることを考えると、ここでもし烈な競争が起こっているのかもしれません。

どのレイヤーにおいても競争とリスクが存在します。どのポジションに身を置き、どのような価値を提供するのか。それが顧客が求めていることか。自社の将来にとって有益なのか。やりたいことなのか。それらを意識し自問しながら、進むべき道を選択する必要があります。

(2)新規参入の脅威【大きい】

(2)新規参入の脅威

・「企業のビジネス課題解決」に長けた競合の参入加速
・web領域は常に技術革新と新規参入の脅威

webサイトは会社案内や名刺代わりというポジションから、企業の課題解決の手段として役割と地位を大きく変化させました。

課題の視点から入ると、その解決にはwebサイトだけではなく、戦略からCRMまで多面的なアプローチが必要であることがわかります。web制作会社が上流工程や運用まで業務範囲を広げていったように、上流工程や周辺業務を担っていたマーケティング支援、MAベンター、営業支援系の企業などが、反対にweb制作領域に進出する流れが加速する可能性があります。

さらに今後も、あらゆるものがデジタルデータになっていく流れで、今までにない領域から脅威をもたらすプレイヤーが参入することも充分に考えられます。

webサイト制作は、元手がほぼかからずパソコン1台で起業出来る参入障壁の低い商売なので、十数年も前から新規参入が絶えないレッドオーシャン(血で血を洗うような競争市場の例え)ですが、退場者も少なくありません。

web制作自体が30年前には無かった職業なので、技術の進化で淘汰されることはむしろ自然なことなのかもしれません。無策だとこの先ますます厳しくなるので、新陳代謝はテクノロジー領域でメシを食う宿命だと受け止めて、変化を面白がり、変化に乗っかり、柔軟にしたたかに生き延びてやりましょう。

(3)代替品の脅威【大きい】

(3)代替品の脅威

・Webサイトはすぐには置き換わらない
・イノベーションにより企業の情報発信が変化
・NoCodeなどの新技術はポジティブに利用する。
・代替品の登場は避けられない。顧客の課題解決に着目。

webサイトの代替品

webサイトは、とくにビジネスや専門分野において、信頼度の高いオフィシャルな情報発信、詳しい解説、ブランド形成、自社メディアのハブとして重要度は高く、その機能が短期間で置き換わることは考えにくいです。

しかし、スマートフォンの普及により、スマホサイトやアプリ、SNSなどがBtoC(個人向け)コミュニケーションの主流になったように、AIの進化、メタバースの社会への浸透、スマホに代わる革新的なデバイスが引き起こすイノベーションにより、近い将来BtoB領域においても企業の情報発信やwebサイトの形態は大きく変化する可能性があります。

webサイト制作の代替品

次に「web制作業に絞った」代替品ですが、STUDIOやペライチに代表されるweb系のNoCodeツールがまず挙げられます。「事業会社がコストを抑えて簡単にwebサイトを作る」というイメージが強いのですが、思い通り扱うには結構な学習時間が必要です。

事業の創業期やスモールビジネス、広告から流入させるランディングページなど、一定の需要を満たす可能性はありますが、代替品としてはまだ限定的であると思われます。

AIもそうですが、NoCodeはプロが正しく取り入れることで生産性を何倍にも高める可能性があります。時間を生むポジティブな代替品として、業務をどのように効率的に置き換えられるか考えてみるのも良いと思います。

ただし中期的に見ると、NoCode分野はAIの進化と相まって、爆発的に進化をする可能性があります。AIによって「作る」から「クライアントのことをよく理解して作る」になっていくことで、web制作会社等が担ってきた仕事の多くが置き換わっていくものと思われます。

その他にも、マーケティング支援系のCMSや採用サイトの代替となるengageなどもwebサイトの代替品と言えます。

テクノロジーの進化により代替品の登場は避けられません。あくまでwebサイト制作は手段という前提に立ち、クライアントの課題解決を考え抜くことが、web制作会社が課題解決会社として生き残るスタンスだと私は思います。

(4)売り手(採用)の交渉力【強い】

(4)売り手(web人材採用)の交渉力

・中級レベル以上のweb人材が少ない
・人気の人材獲得には魅力的な企業と入社条件
・採用コスト高い。育成コスト高い。離職リスク高い。

web制作会社を成立させるためには開発するスタッフが必要ですが、その人員の確保が本当に難しくなりました。Web業界の人材事業をおこなうレバテックの調査では、Webデザイナーの求人倍率は10.4倍という結果が出ています(2021年12月調べ)。厚労省が発表した令和4年の平均有効求人倍率が1.28倍なので、統計の前提を疑ったとしてもいかに人の採用が難しいか分かります。

皆が欲しがるバリバリの即戦力を採用するには、企業そのものの魅力と魅力的な入社条件が必要です。さらに人材エージェントを使っている可能性が高いので、採用できたとしても数百万の報酬をエージェントに支払います。そんな時間と金を掛けて入社した(してもらった)人材がミスマッチでもしたら目も充てられません。

一方でスクールで数ヶ月学んだような初心者のwebデザイナーは余っている状況です。あまりにも採用ができないと、つい初心者のポテンシャルに賭けてみたくなりますが、育成コストと離職リスクが高いので、それらを併せのんで判断するしかありません。

もはや採用がwebビジネスの泣き所です。
選ばれるブランド力を持てるのが理想ですが、そう簡単ではありません。
採用の脅威を回避する方法としては「人の取り合いに参加しない」作戦がありますが(以下参照)、どれも一長一短あるので悩ましいところです。

・制作を外注し上流工程とディレクターに特化した会社になる
・オフショア開発など、海外の現地法人に委託をする
・初心者webデザイナーを雇用し、低価格戦略をとる

ちなみに、私が従業員に言われたくない言葉の1位は「ちょっとお時間いいですか」です。ほぼ悲しいお知らせが届きます。AIやツールによる生産効率の改善により、人材不足の状況が解消に向かっていくことを切に願います。

(5)買い手(クライアント)の交渉力【強い】

(5)買い手(クライアント)の交渉力

・web制作業界の売上成長率は3年間で約30%
・買い手市場で激しい競争。新規顧客はほぼコンペ
・web担当者がマーケやwebに詳しく
・「自社に頼みたくなる状況」を創る工夫

コロナにより加速したDX推進やweb活用のニーズは依然として高いのですが、体感的にはこの3年間でデジタル活用に積極的な企業の投資の1周目はある程度終わった感じがあり、売上高は高水準のまま成長率が鈍化しそうな気配です。

需要が多少低下したとしても、依然としてweb業界にプレイヤーが溢れていますので、選べる立場にある買い手には、より有利な状況(買い手の交渉力が強い)になると予想されます。

さらに買い手側としては、選択肢が多すぎるがゆえに、自社にフィットするパートナーを見極めることが難しいという課題を抱えています。そのため、絶対的なブランドや独自の技術やノウハウが無い限り、新規の取り引きには、30万だろうと1000万円の仕事だろうと、ほぼコンペになります。

クライアントサイドでもマーケティングやwebに詳しい担当者が増えました。やり取りがスムーズな一方で、コンペの提案要求がやたらレベル高かったり、沢山の会社に声を掛けていたりと、エントリーすら躊躇してしまうような状況も少なくありません。

そのような競争を回避する上では、「海外向けBtoBマーケの実績とノウハウ」や「物流業界の中途採用に強い」などといった、特定の業界や課題解決に特化したニッチな領域でトップになることで、「クライアントが自社に頼みたくなる状況」を創り、値下げをせずに競争力を保つことも重要です。

【まとめ】つまりweb制作会社はなくなるの?

状況を整理をしてみると、web制作会社が完全になくなる、web制作が不要になる、ということではなく「webサイトを制作する機能」は他のサービスでも十分に満たせるため、web制作だけの仕事はなくなってしまう可能性が十分にあることが分かります。

web制作会社の立ち位置次第では「なくなる」に近い危機感があっても不思議ではありません。厳しい状況であることが分かりますが、同時に生存ルートや勝ち筋がうっすらと見えてきたように思います。

孫子の兵法とダーウィンをごちゃまぜにして語れば「生き残るのは、敵と味方の情勢をよく知り、変化に最もうまく対応することができる者だ」という感じでしょうか。

まずは自社の実績や顧客を手掛かりに「誰が・何に」困っているのかを掘り下げ、求められる形に、生き延びられるポジションに自分たちを最適化させていくことがこれからのweb制作会社に大切なことのように考えます。

もしかしたら、自分たちを「web制作会社と呼ばない」ことが変化の第一歩になるのかもしれません。

私自身の体験や知識を整理してつらつら書き上げようと簡単に考えていたのが、思ったよりも正しく理解していないことが多く、調べながらまとめました。「わかってねーな」と感じられたら遠慮なく突っ込んでください。

ちなみに、私はweb制作会社という立場から離れ、「パートナー選定からはじめるweb活用支援」を行っています。気軽にご相談ください。


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