Podcastの裏側〜野辺山宇宙電波観測所のこと〜

 

 2021年4月12日日深夜、中央高速を北へ。翌日は朝から野辺山宇宙電波観測所の立松健一所長にインタビュー。
 日本の宇宙研究の最先端についてお話をうかがい、リスナーのみなさんにお届けするとともに、自らの見識を広める……。

 などと構えて車を走らせてみれば、初っぱなからアクシデントに見舞われた。齢21歳を数える愛車ロードスターが坂道でいっこうに加速しない。まるでエンジンがどこか遠くにいっちゃった感じ。
 そのときはたまたまツイキャスでおしゃべりをしながら現地に向かっていたので、お聴きになってくださっていた方はおわかりと思う。
 21年も乗っていればいろいろなところにガタがくるもので、素人ゆえの悲しさ、頼るのはケミカル。エンジンのスラッジを強烈に落としてくれるFCR-062という薬品を使ってみた。使ってみたのはいいけれど、どうやら入れすぎてしまったらしく、燃料が薄まってうまく燃焼しなくなってしまっていたらしい。ケミカルは用法用量を守って正しくお使い下さい。
 途中PAで様子を見たりしながら、そして若干の不安を抱えながら長野へ。こんなときはいつも以上に取材も不安になる。ちゃんとできるかな、怒られたりしないかな、運転している間ずっとそんな感じ。

 そして到着して、ホテルで一晩過ごして早朝に目覚めてみれば濃霧。のみならずまとわりつくような霧雨。
 待ち合わせをしたゲートから奥の研究棟に車を走らせていくと、霧の中からゆっくりと45m電波望遠鏡が浮かび上がる。まるで映画「ミスト」の巨大生物のよう。

 研究棟というと、みなさんどんなところを思い浮かべます?白い壁に最新のコンピュータや検査装置が揃ってて、白衣を着た研究者他たちがマグカップを片手に議論をしてる?テレビで見る海外の研究所はそういうところもあるのだろうけれど、ここはちっともそんな感じじゃない。
 むしろ建物は昔の小さな小学校のようだし、通された部屋は小さなただの会議室のよう。実際、長机がひとつ置いてあるだけだし。
 ただ立松先生の肩越しに、細長い窓から45mパラボラのアンテナが見えていることだけが普通ではなかったけれど。

 いま、野辺山宇宙電波観測所は閉鎖の危機にある。というか、事実上、半閉鎖状態なんじゃないかと思う。番組でもお話ししたけど、日本最高峰の観測施設であるにもかかわらず、金がないから食堂は閉鎖、トイレのドアは軋む音を立てる、施設内には整備の追いついていないところがいくつもある。
 施設に出向いて観測する交通費も出せないから、遠隔で操作しなくちゃならない。稼働時間も短縮しなくちゃならない。
 なによりピーク時には300人近くいた研究員が来年度には15人程度にまで減らされる。
 それがいま日本の最高峰の天体観測施設が置かれている状況。

 インタビューそのものの内容はあらためて番組をお聴きいただくとして、立松先生、とにかくおもしろかった。
 お話をうかがった科学者の多くがそうだけど、本当にその分野が好きで好きで仕方がない感じ。だからまだ収録を始めてもいないのに、「アタカマ砂漠で星を見るとね…」とか「入口のところに最近の車がくると電波の影響でね…」なんて話が始まってしまう。
 よかった。サブの機械をまわしておいて。そのお話も漏らしてしまうには惜しいものばかりだったから。

 インタビューの内外で立松先生が繰り返し仰っていたのが、「日本の科学力の危機」
 科学と教育に、あまりにも金を使わなくなってしまった。いわゆる「お受験」や「お勉強」にお金を使う人は多いけど、はたして本当に「教育」にお金を使っているのかな?それは家庭単位の話以外にもいえて、国が教育にかけるお金もビックリするほど低い。
 OECDによる「対GDP比公的教育費」は日本は世界で135位。「金額そのものではまだまだ大きい」という人もいるだろうけど、そのGDPもどんどん落ちている。

 ノーベル賞を受賞した先生方も、「今後、日本はノーベル賞が取れなくなる」と危惧してる。今年はもう国籍を変えている人まで持ち出して、「(元)日本人が受賞」とやらないといけなくなった。

 日本は資源がない国だから、技術で食えなくちゃいけないし、それがうまくいっていたのが高度経済成長。もちろんこれは焼け野原に最新の工作機械ばかりが持ち込まれたことや、アメリカの対共産圏戦略があったりするけど、それでも技術を磨いて国を豊にしていた。
 技術を生むには基礎となる科学が必要で、科学を進めるには教育が不可欠なんだけど、いつの間にかその手を緩めてしまって、かつては日本の独壇場だった白物家電はもはや海外では日本製なんてほとんど見ない。テレビだって、日本国内ではまだ日本製を見るけど、海外の空港やカフェだってもう日本のテレビが使われているところはない。それでも「日本の技術は世界一!」と思ってるのは完全に「井の中の蛙」状態。

 シャープが海外企業に買収されるなんて夢にも思わなかったし、ニコンが国内でのカメラ製造をやめるなんて想像もできなかった。

 塾で子どもたちを教えていても、明らかに学力が落ちている。年寄りはすぐ「俺の若いころは…」といいがちだけど、僕は常に同じ年齢層の子どもを見てきたので比較対象が同じ。それでも明らかに学力、思考力が落ちている。
 もう本当に崖っぷち。いまなんとかしないと、本当にどうにかなってしまう。そんなことを思いながら、日々教壇に立ち、知ることのおもしろさを伝えるために『そんない雑貨店』というポッドキャスト番組をやっているのです。

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