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詩2編「左手と右手」「奴」~詩集「悪魔に乾杯」より

「左手と右手」

ガラスに映る左手と右手
背後の窓には霞むビルディング
視界が流れていく

右手は指す
暗い空の先
滑空する飛行機の光
白い冬の水面へ 落ちていく

左手は指す
窓にもたれるたわわな黒髪
かすかに聞こえてくる安らかな寝息
ガラス越しに伝わる指先の温もり

窓に映る左手と右手
車輪は揺れ両手が消えても
線路はどこまでも続く
向こう側の世界へ



「奴(青の世界2)」

街を歩いていると奴をよく見かける
人通りが多い場所にはうようよいる
いくら巧妙に化けていても一目瞭然だ
大体が皮膚の色が違う
人間の皮膚がそんなに青いものか
この間は駅のプラットホームにいた
相変わらず高慢な顔つきで新聞を読んでいた
わたしが見ていることに気がつくと軽くこちらに会釈をした
かすかな笑いだが実に不気味だ
まるで胃の中を覗き込まれたような気分だ
そいつはわたしに手を振ると人混みに紛れ込んで消えてしまった
追う気はしない

早くも別の奴が横にいる
花束を抱えた小さな愛らしい少女がこちらを見ている



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