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海のピエロ~#毎週ショートショートnoteお題「海のピ」

 道化師は海を揚々と歩いていた。赤と黒の縦縞模様の山高帽をかぶり、赤と黒の道化服を着て軽やかに海面を歩いていた。時折、頭上を飛ぶ海鳥が甲高い声で叫ぶと道化師は「おう」と言って満面の笑みを浮かべた。
 ソロモン諸島を立ったのはいつだったろうか。ひたすら北を目指して歩いた。
 ある時は巨大な鮫に襲われたが、一芸を披露すると鮫は大笑いして退散していった。またある時は鯨に飲み込まれたが、鯨の口腔内で自慢の必殺芸を披露すると笑いを堪えきれなくなった鯨は道化師を吹き出した。
 そうしてやっとグアム島まで無事たどり着くと、島は人間どもの観光客で一杯だった。道化師は疲れていたが、海辺で浮かれて騒ぐ観光客にはやし立てられて不承不承一芸を披露した。
「何だつまらん」客の反応は散々だった。納得のいかない道化師は翌日もその翌日も芸を披露したが相手にされなかった。一銭の持ち合わせもなかった彼は道化服を売って端金に変えたが、その金もすぐに底をつき物乞いに落ちぶれた。
 その後海を渡る道化師の姿を見た者はいない。
 


本作は、毎週ショートショートnote参加作品です。毎回企画ありがとうございます。

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