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「天ぷら不眠」~毎週ショートショートnote参加作品

 野菜天は暗闇の中にいた。四方を囲まれた箱の中にいる。ときたま天井から指す光に照らされて隣にジャガ天がいることが分かった。天ぷらたちは近頃仲間うちで噂される「天ぷら不眠」という言葉を思い出した。
 噂によれば、天ぷらのままどこか暗くて狭い箱の中に放り込まれ、朝になるまで放置。夜が明けると大きな機械音がして箱から殺風景な大部屋に移されて数時間後に粉々に砕かれてしまうという。その末期は悲惨なもので、想像するだけで恐ろしいため、天ぷらたちが暗い箱の中で過ごす一夜は一睡もできないそうだ。
 野菜天とジャガ天は震え上がった。今がまさにその状況だ。涙がこぼれた。このまま真っ暗な箱で眠れない一夜を過ごし明日悲惨な死を遂げるのに違いなかった。
 すると天井が開いて、一筋の光とともに黒い手が伸びてきた。
「食い物があったわい」ポリ袋を下げたホームレスの老人が野菜天とジャガ天を口に放り込んだ。
 助かった!咀嚼されながら野菜天は安らかな眠りについた。


本作は、毎週ショートショートnote参加作品です。いつも企画をたてて頂いてありがとうございます。


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