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「赤く塗る男」~ #シロクマ文芸部 #赤い傘


「赤く塗らなければ!」
埃だらけのキャンバスを前に男は唸った。
キャンバスには傘をさした婦人が描かれていた。
バケツを足元に動かすと、ぴちゃぴちゃと音がした。その中に絵筆を浸すと傘の部分を真っ赤に塗りたくった。飛び散った絵の具で床があちこち赤く染まった。
「絵の具が足らない!」
男はバケツを覗き込んで血走った目を大きく見開いた。
殺風景な部屋を照らす吊り下げ照明がわずかに揺れている。その照明の傘も真っ赤だ。光の加減で天井も赤く染まっている。男の足元だけでなく、部屋の床のあちこち、壁まで赤い絵の具が飛び散っている。
男は筆を置くと、テレビのスイッチを入れて音量を上げた。漫才をやっている。早足で赤い染みのついた襖を開けて隣の部屋に移動した。湿っぽい空気が漏れてくる。怒ったように襖を閉める。
しばらくして何か動物の呻くような音がした。
継いで鋭い機械音がする。

ががががが

呻くような音が甲高い音に変わるが、漫才の嬌声にかき消された。

がががが

もう一度機械音がしてから、男は襖を開けて出てきた。
片手に小さなバケツをぶら下げている。ぴちゃぴちゃと音がする。
男は再びキャンバスに向かうと、筆をバケツに浸して傘を真っ赤に塗りつぶした。
キャンパスには赤い傘をさした婦人とひまわりが描かれていた。
婦人の横顔がかすかに笑みを浮かべている。
「服も靴もひまわりも赤くするか」
男はそう呟くと再び襖を開けて隣の部屋に入っていった。


シロクマ文芸部参加作品です。ホラーっぽくしてみたけど、うーん、イマイチ笑

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