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東京国際映画祭日記 DAY4

10月28日金曜日、本日で4日目の参加。
昨日は予定があり東京国際映画祭に行けなかったが、しっかり休んだので体力は万全!

まずは本日の1本目、11時から角川シネマ有楽町でNippon cinema now部門の『わたしのお母さん』。
『人の望みの喜びよ』(15)がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でスペシャルメンションを受賞した杉田真一監督の7年ぶりの最新作。

<あらすじ>
母との関係に苦しむ娘・夕子(井上真央)は、とある出来事をきっかけに母・寛子(石田えり)を家に引き取ることになるが・・・。

『わたしのお母さん』場面写真



ああ、とても苦しい映画だ。
娘の抱える、いつまでも過干渉してくる母への嫌悪感が画面から滲み出ていて、物凄く共感した。
その分、観ていて苦しかった。
個人的には、自分の物差しでしか人を見ることができない母のキャラクターがめちゃくちゃ嫌いだった。
しかし「良いお母さん」であろうと気丈に振る舞う母の気持ちや、それに応えてくれない娘への怒りも、共感は出来ないが理解は出来た。
ただ、それは誰のための「良いお母さん」なのか?と考えた時に、この母親は結局、自分のために、自分が頑張っていると伝えたいだけなのではないかと思った。子どもを育てることは本当に大変だし、色々我慢して頑張ってきたことは分かっているのだけれど、実の子どもであれ、「嫌い」という気持ちを変えることは非常に難しい。聞き分けの良い子どもは、親に対して「嫌い」なんてことは言えないし、言わないほうが良いというのは頭ではわかっているから、自己嫌悪に陥ってしまうのだろう。
そんな娘の心の機微を、セリフは少ないながら、井上真央が表情と佇まいで完璧に表現していた。感情が昂ることはないが、胸の奥に抱える暗い部分が物凄く伝わってきた。
母を演じた石田えりさんの外面の良さと声の大きさ、主観の強さを観客に印象付ける演技も最高だった。個人的には素晴らしいヒールだと感じた。
上映後の舞台挨拶Q&Aでは、杉田真一監督と井上真央さんが登壇された。井上真央さんの、自分の役への造詣の深さが物凄かった。
ここまで自分の役柄を客観的に分析出来るのか!という驚きがあり、今まで以上に井上真央さんの人柄に興味を持った。
もうすぐ劇場公開するらしいので、多くの人に観てもらいたい!

『わたしのお母さん』舞台挨拶(左→井上真央さん、右→杉田真一監督)



続いて2本目は、TOHOシネマズシャンテでコンペ部門の『第三次世界大戦』。
イランで俳優としても活躍するホウマン・セイエディ監督の最新作で、たしか今年のヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で最優秀作品賞を受賞していた気がする。(ちなみに日本からは石川慶監督の『ある男』が出品されていた)

<あらすじ>
第二次世界大戦を扱った映画にエキストラとして参加していた日雇い労働者のシャキーブ。ある日ヒトラー役の俳優が降板してしまい、シャキーブが代役として抜擢される。撮影セットに寝泊まりすることになったシャキーブの元へ、知り合いである聾者の女性ラーダンが助けを求めに来るが、そこから大きなトラブルへと発展していく・・・。

『第三次世界大戦』場面写真



これは、かなり凄惨だ。展開がエグすぎる。
今まで見たコンペ作品の中では、一番胸に突き刺さった。
前半は、日雇い労働者の男性が映画の主演へと飛躍していくという展開で、階級社会の逆転を、笑いどころも作りながら描いていた。
しかし後半は一転して、前半の展開を逆手に取り、世の中の人間は、与える者/与えられる者の2つに分けられてしまう、という残酷な現実を真っ向から描いていた。
この映画は脚本が凄い。全員で地獄の展開へと向かっていく、この絶望感は堪らない。これは必見だ。
1番面白いか、1番つまらないかのどちらかに分かれる作品だと思う。
上映後Q&Aでは、キーマンとなる女性を演じたマーサ・ヘジャーディさんが登壇された。
『第三次世界大戦』というショッキングなタイトルの意味について、今現実に近いものが起きているから納得したと仰っていて、危機感を覚えた。

『第三次世界大戦』Q&A(マーサ・ヘジャーディさん)



17時頃映画が終わり、サイゼリヤで夕食を食べる。ワンコインで大満足!人が多かったからか、Wi-Fiが繋がらなかった。残念…。


そして、ヒューマントラストシネマ有楽町で3本目、コンペ部門の『山女』。

長編デビュー作『リベリアの白い血』(15)がベルリン国際映画祭のパノラマ部門に正式出品された福永壮志監督の最新作で、初めてプロの俳優に出演してもらった作品とのこと(TIFF TIMESより)。映画祭に先駆けて、NHKでドラマとして放送していたらしい。しかし、映画は映画館で観たい!

<あらすじ>
舞台は18世紀後半の東北。冷害による食糧難に苦しむ村で、とある仕事をしているために、村人たちから蔑まれている少女・凛(山田杏奈)。
ある日、凛の父である伊兵衛(永瀬正敏)がとある事件を起こす。とっさに父を庇った凛は自ら村を去り、決して立ち入ってはいけないと言われている早池峰山の奥深くへと向かう。そこで、山男という不思議な存在に出会う…。

『山女』場面写真

この作品は、一つひとつの画が作り込まれていて、非常に美しかった。自然の、畏怖すら覚えるほどの荘厳さを見事に描いている。
また、昔の村社会の人々の愚かさを、あえて今のタイミングで描くことで、このような村社会の愚かさは現代でも根強く残っていることを強く感じさせられた。
そして森山未來が、『i ai』に続いて、またとんでもない存在感を発揮している。去年の東京国際映画祭では青木柚の存在感が素晴らしかったが、今年は森山未來が素晴らしい。セリフらしいセリフは全く無いのに、観客の視線を釘付けにする圧倒的な佇まいだ。
山田杏奈の、物語の中で進化していく姿も魅力的だった。本当に幅広いジャンルの作品に出ていて、色んな面を見せてくれる素晴らしい俳優だと思う。同世代として、これからも楽しみ。
役者陣の方言も、浮いて聞こえることはあまり無かった。しっかりとした演出が行われていた証だと思う。自分は東北出身だから、何を言っているのか聞き取ることは出来たが、場面によっては、むしろ英語字幕読んだ方が理解しやすいのでは?というセリフもあった気がする。


観終わった後、目の疲労がひどいことに気がついた。スマホを見るのも辛い。
街灯が眩しすぎるので、日比谷公園まで歩き、目を瞑って軽く休めた。都会の公園はなんだか落ち着く。

本日最後の4本目は、TOHOシネマズシャンテでアジアの未来部門の『消えゆく燈火』。
香港のアナスタシア・ツァン監督のデビュー作で、サイモン・ヤムとシルヴィア・ツァンの名優コンビが夫婦役を演じるという豪華な作品。

<あらすじ>
腕利きのネオンサイン職人だった夫の死後、失意の妻ヒョンはふとしたきっかけから夫のやり残したネオン制作の夢を引き継ぐことを決意するー。

『消えゆく燈火』場面写真


本当に素敵な映画。人情に溢れていて、どこか懐かしくもあり、寂しくもあった。
芸術的で考えさせられるような作品が続いた分、小難しさの無い、ひたすら郷愁に満ちた娯楽作品に心が癒された。
夫婦の愛の強さに、ほろりと涙がこぼれ落ちる。
かつて香港の街を彩ったネオンサインは、街から消えつつあるが、美しさに魅了された人はいて、実物は消えても、その人の心には強く残り続ける。この作品では、ネオンサインと夫婦を重ね合わせていて、とても儚い気持ちにさせられた。
画一化の進む世の中は、便利である一方で、どこか消えてしまった温かさもあると思う。
消えゆく温かさを映画に残す事で、消えない思いが紡がれていくのだと感じた。

今日も大満足の1日。
もう2時過ぎた。日記書くのは割と大変だが、頑張って描き続けようと思う。
明日は番外編。
佐久間宣行のオールナイトニッポンpresentsドリームエンターテインメントライブに参加するから、映画祭はお休み!

(場面写真は東京国際映画祭公式Twitterから引用させていただきました。)

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