ケンブリッジ郊外で撮影したヴィンテージな結婚式|英国ウェディング物語
デヴィッド氏との出会い(長すぎる前置き)
私はフリーランスのウェディングフォトグラファーとして、京都を拠点に、全国各地、そしてイギリスで、これまで沢山の結婚式を撮影してきた。
とりわけ
2009年からコロナ直前の2019年までのちょうど10年間、
私は毎年欠かさず渡英し、現地の結婚式(=英国ウェディング)を撮り続けた。
この10年間は同時に、日本でのウェディング撮影の仕事が多忙を極めていた時期でもあった。
結婚式を撮影する仕事は本当に大好きなのだけれど、その反面、日本の結婚式場で撮影すればするほど、しんどさも募った。
分刻みでの撮影が強いられる「詰め込み式」のタイムテーブル、
「この場面は撮影禁止」「この場面はここからこうやって撮れ」といった規制だらけの撮影ルール、
「持込み禁止」という、私のようなフリーランスを締め出す産業構造、
などなど。。。
そこで私は、1年のうちの何週間かを無理やり空けてイギリスへ飛び、ただ旅行や友達に会う「休日」を楽しむだけじゃなく、思いきり自由(※)に結婚式を撮影する「仕事」をすることに、このうえない生き甲斐を感じていた。
(※思いきり自由といっても、イギリスにも結婚式という儀式を撮影するために守るべきルールやマナーは、もちろんあります。)
しかし、一体どうやって、日本のフォトグラファーである私がイギリスのウェディングを撮影することができたのか?
発端は、イギリスのプロフェッショナル向けの写真協会(BIPP)に入会しようと決めたことに始まる。
当時(2008年)、私は日本のウェディングフォトグラファー協会(現在のJWPA)に所属したばかりだった。
いつも相談に乗ってくれている先輩のコマーシャルフォトグラファーから「ミチさんやったらイギリスの写真協会に所属すればエエのに。」と言われ、それもそうだな、と…
はじめは、そんな軽めの気持ちだった。
BIPPに入会するには、かなり厳しい入会審査があった。書面と作品(6切サイズのプリントをパネルに貼ったもの)20点を郵送して審査され、最後はBIPP本部に出向いて面接を受けなければならない。
おまけに、2人のメンバーからの推薦が必要だった。
1人は入会案内をチュートリアルしてくれたメンバーが引き受けてくれたが、残る1人は自力で探さないと。
しかし私は誰も知らない(だからこそ入会することにしたのに…)。
そこで、BIPPのサイトに掲載されていた会員リストの中から、かつて私が留学時代に住んでいたレミントン(Royal Leamington Spa)という町の近辺に住むフォトグラファーをピックアップし、推薦人になってくれないかとメールを書いてみた。
最初の人からは返事が来ず、次の人からは断りのメールが来た。
2008年といえば、みんなまだガラケーを使っていた時代、インスタグラムなど無かった時代の話である。
(なんだか紀元前の話みたい^^;)
まさしく「どこの馬の骨とも分からない」遥か彼方の東洋人からの、唐突なメール。
相手にする気にもなれないのは当然かもしれない。
※iPhoneは2007年、インスタグラムは2010年に誕生。
しかし、
3人目にして
快諾の返事をくれた人がいた。
David Morphew氏、
私の人生の大恩人との出会い。
その年の夏、私は渡英し、面接試験にもパスして晴れてBIPP正会員になった(唯一の日本人メンバーとして後日、会報に大きく掲載されたりした)。
審査の後でレミントンへ立ち寄り、初めてDavidに会った。
彼はそろそろ定年に近づきつつある年代の人だった。最近になって脱サラし「人生最後の職業」として、かねてからの夢だったフォトグラファーに転身したという。つまり彼もまた「情熱」の人だった。
また非常に知的な人でもあり、私のウェディングフォトに賭ける思いをよく理解してくれた。
そこで、思い切って聞いてみた。
「私にとってウェディングフォトは単なるビジネスではなく、情熱をもって取り組んでいる創作活動です。日本とイギリスの結婚式を撮影し、作品として発表することで、日英の文化理解の橋渡し役になることが私の夢なのです。私は年に一度イギリスへ来るようにしますので、その時、どうかあなたの撮影に同行して一緒に結婚式を撮影させてもらえないでしょうか?」
と。
こうして、
出会った翌年(2009年)から彼がウェディングフォトグラファーをリタイアする(2014年)までの間、私が渡英した時は彼のウェディング撮影に加わり、ゲストフォトグラファー的な立場で一緒に撮影できることになった。
その間、彼は計り知れない恩恵を私にもたらしてくれ、私は良い写真を撮影して彼のクライアント(新郎新婦)に喜んでもらうことで彼に恩返しした。
ウェディングフォトグラファーは責任の重い、ただでさえ大変な仕事だ。
Davidには、私と関わることでさぞ余分な苦労をかけてしまっただろうと今でも心苦しく思うことがあるし、私は私で、乗り越えられない言葉や風習の壁にぶち当たって辛い思いをしたことも多々ある。
そんなこともぜ~んぶひっくるめて
英国ウェディングを撮影した思い出の全てが
あの時代、
あの幸運、
そして、あの頃の私だからこそ手にすることができた
奇跡という名の宝物。
その宝物の入った心の中の箱を
時折りそっと開いて
英国ウェディングの思い出を
少しづつ綴っていきたいと思う。
クロエとポールの結婚式(やっと本題)
「前もって言っておくけど、今度のウェデングはちょっと変わってるからね。」
と、Davidは言った。
2011年5月に撮影した、
ChloeとPaulの結婚式の話。
「どんなふうに変わってるの?」と聞いても、「ヴィンテージがテーマとしか言いようがない」との、素っ気ない答え。
その当時、ヴィンテージといえばワインか、せいぜいジーンズが思い浮かぶくらい。なにやら「古くて良いもの」ということは分かるのだが、具体的にどんなウェデングになるのか、想像がつかなかった。
それでも「古くて良いもの」が根っから好きな私(だからこそのイギリス好き)。
期待に胸が高鳴った。
当日、到着した会場は、いつものような教会や式場ではなくー
ケンブリッジ郊外(Cambridgesheir)のSOUTH FARMという、農場。
新郎新婦の婚礼衣装は、古着。
参列者も、古着がドレスコード。
会場の飾り付けは、新郎新婦とベストマン、ブライズメイド達による手作り。
挙式も披露宴も「古き佳き時代」のもので統一され、果てしなくお洒落でアットホームな世界観に包まれていた。
たしかにDavidが言ったとおり
イギリスでも、もちろん日本でも見たことのない
ちょっと風変わりな結婚式。
それは、
ロイヤルウェディングにも匹敵するほど、美しく、本当の意味で「豊か」な結婚式だと、私には思えた。
特筆すべきは、13年前に撮影したこの「ヴィンテージ・ウェディング」が今見ても全く色あせず、それどころか、いまだに時代の先端をいくような洗練された輝きを保ち続けていること。
「古き佳きもの」は、ただ懐かしいのではない。
永遠に新しいのである。
ファーストダンスを撮り終えて任務を完了し、帰路に就いた私は、仕事ながら夢のような1日を過ごした感激と、良い写真が撮れた確かな手応えで胸がいっぱいだった。
9pmを過ぎてもまだ明るさの残る空。
思わず車を止めてもらい、シャッターを切ったあの色もまた、永遠に色あせることはないだろう。
<おしらせ>
2024年4月20日~5月5日まで
京都、出町桝形商店街の古書店エルカミノにて
『本と写真とティータイム展』を開催します。
当イベントの一環として
今回の『ケンブリッジ郊外で撮影したヴィンテージな結婚式』の写真の一部を展示します。
また、上に掲載したウェディング・フォトブックの実物を手に取って閲覧していただけます。
ちょうど、京都ではKYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)が開催されており、町を歩けば色んな写真展に当たります。
そんな京都へ
そして古書店エルカミノへ
お越しいただけたら嬉しいです。
『本と写真とティータイム展』の詳細は
こちらをごらんください
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